第50話 魔物の暴走 (5)
使用者の魔力によって召喚できる魔物が異なり、その魔力の量により大きさは変化する。
魔力により作り出された幻影にすぎないが、敵となると非常に厄介な術でもある。
なぜなら幻影から作り出された魔物は実体がなく、物理攻撃が通じない。唯一、
もし物理攻撃で倒すのであれば、術者を倒すしかないが
彼らは元は影より作り出された幻影。
術者が死ねば自身も消えることを本能で悟っている為、敵を術者に近づけさせるはずがない。
「グルルゥゥ・・」
黒い炎を口に纏い、
「グラァァ!」
吐き出された
その瞬間ナストリアの前線を守っていた
それだけではない。
その衝撃波だけで一部の壁にヒビが入り、
その威力に冒険者も騎士たちも呆然と口を開いたまま、その光景を眺めていた。
だが障害物がなくなったことに魔物達は一斉に大門に向けて流れ込んでいく。
「!!
「全員門を守れ!これ以上の侵入を許すな!!」
咄嗟に我に返り、慌てた冒険者や騎士たちが一斉に大門に集まる。
再び魔術師が
「くそ!残っている者だけでも
「ムリだ!この大群では意味がない、直ぐに破られる!」
少数の魔術師では、大群の魔物の進行を止めれるほど強度の強い
ならばいくつも
「二発目が来るぞ!」
「!させるか!」
暁は咄嗟に飛脚し、頭部に拳を叩きつけるが手ごたえを感じることなかった。
まるで霧を攻撃しているかのように、暁の攻撃がすり抜けていく。
「!?」
「馬鹿ナ鬼人ダ。
宙でバランスを崩す暁を、
「ぐ!!」
激しく地面に叩きつけられた暁は、続く尾の攻撃に即座に体を反転させ避けた。
咄嗟に全身を集中強化させたお陰で臓器や骨に異常はなかったものの、物理攻撃が通じない厄介な相手に暁は舌打ちを漏らした。
鮮血将軍猪人族が言ったように
魔力により作り出した幻影に、急所看破は全く作用されない。
物理攻撃を無効化している相手に、物理攻撃が主な暁には完全に不利な戦いでもあった。
「魔物が壁を上ってきてるぞ!」
「それ以上此奴らを近づけさせるな!」
物理攻撃が効かないのであれば魔法で支援を願いたいが、いま後方では術師たちが必死に魔物を侵入させまいと戦っている。
街に魔物を侵入させるわけにはいかないと暁は応援を断念する。
だが暁は知らない。
ナストリアに在中する魔術師では、この
Aランクの魔物を討ち取れるほどの魔法の威力を持つ者でなければ、
もしこの戦場に白銀ランクがいれば戦況は全く違ったであろう。
だが、いない者を頼れるはずもない。
このまま
「ハ!愚カ者メ!!」
「グルァァアアア!」
再び攻撃を仕掛けてくる暁を
咄嗟に強化で身を守るが衝撃に耐えきれず、暁はナストリアの壁へと叩きつけられた。
「ぐぁあ!」
「アカツキさん!大丈夫ですか!?」
「・・・ッ、あぁ、平気だ」
その付近で戦闘していたコリスが慌てて暁に駆け寄ってくる。
彼らも限界まで戦っていたのだろう。
欠けたダガーで敵を薙ぎ払うが、ランクに上がりたてで戦闘経験が乏しい彼では厳しい戦いであり、全身は満身創痍に近い状態だ。
「摑まってください」
「すまん」
コリスの手を借り暁は立ち上がる。
頼みの綱であった鬼人さえ太刀打ちできない状況に、冒険者の顔は絶望に染まる。
だがそれで魔物は引くはずもなく怒涛の勢いで、大門を目指し流れ込んでいく。
「ギィィイィイ!」
「ぐ、ぅ!」
突進してきた魔物の攻撃をタンク役でもあるアマンダが受け止めるも、その力の強さに盾にヒビが入り後ろに僅かに押されてしまう。
ガチガチと巨大な歯をアマンダの頭上で鳴らし、ゾクリと恐怖が沸き上がる。
だがそれでも冒険者としてタンクとして、その場を引くことはできない。
「おい!女のお前じゃタンクは無理だ!下がってろ!」
誰かがアマンダに向けて叫ぶ。
確かにタンクは基本男性が受け持っている者が多い。そのため女がタンク役であることを幾多の冒険者や周囲にバカにされてきた。
だけど、アマンダは自分の役職を誇っている。
「アマンダ!」
不意にコリスの声がアマンダの背にかけられた。
側から見れば心配の声とも聞こえるだろう。
だが、それは違う。
「そいつは任せたぞ!」
いつだって、コリスはアマンダを仲間の力を信頼してくれる。
女だからとか小柄だからとか彼には関係ない。
アマンダの力を信頼してくれている。
それがどれだけアマンダの支えになっているのか彼は知らないだろう。
「おい!無理するな!いま援護に」
「う、るさいねぇ!!」
たとえ周囲にバカにされても、アマンダを信頼してくれる、アマンダが信頼できる仲間がいる。
だからアマンダは自分の役職を誇る事ができるのだ。
「お、んなだからって、なめんじゃないよぉぉお!」
【スキル“不屈”が発動します】
アマンダの持つエクストラスキル“不屈”
不屈は強い危地に遭遇した場合、所有者に三倍の力を発揮させる。
タンクは常に前線で敵の攻撃を引き寄せ、また仲間を守るための盾となる。
そのためパーティーの中ではタンク役が一番負傷が激しい。
まさにアマンダの持つ“不屈”はタンクを務める者にとって欲するスキルでもあった。
「うおぉぉりゃぁああ!」
ぐん、と沸き上がる力にアマンダはヒビが入った盾でそのまま魔物を押し返すように足と腰に力を入れ振り払う。
まるで赤子のように簡単に仰向けに倒れこんだ魔物にアマンダは即座に腹の上に乗り、振り上げた盾で首を切断する。最初はビクビクと動いていたが、直ぐに大人しくなると同時に別の魔物が重なるように倒れ込んできた。
アマンダが視線を向けると、いつの間にかコリスが傍に立っていた。
この倒れこんできた魔物はコリスが討伐したものだと理解する。
「アマンダ、まだいけるか!?」
「全然余裕だよ、それよりも向こうを援護しとくれ」
「あぁ!ここは任せた!」
互いに拳をコツリとぶつけながら、コリスとアマンダは再び魔物へと駆けだした。
皆が皆、必死に大門を守っている。
それは後方支援で待機している魔術師や冒険者も同じだった。
「くそ!キリがねぇぞ!」
『支援物資もそろそろ底をついてしまう』
後方支援のため城壁に待機していたノスやベルツが大門を駆け上がってくる魔物を落とすように攻撃を繰り返していた。
だが一向に減る気配のない魔物に、冒険者たちからも疲労が浮かび始めている。
「くそ!邪魔だ!」
暁も
そして、疲労する冒険者や騎士を徐々に大門へ押しやり突破しようとしている。
「ハハハ!ナント無様ナ事カ、イイゾ!イイゾ!足掻ケ!無駄ナ足掻キヲ続ケロ、人間共ヨ!」
その光景を鮮血将軍猪人族はまるで余興を楽しむかのように笑い見物していた。
まだまだ、背後には多くの魔物が控えている。
既に疲労に満ちている彼等とは違い、自我のない魔物たちには疲労というものを知らない。
このまま攻め続ければ、ナストリアが陥落するのも時間の問題だ。
「フハハハハハ!魔物ヨ!滅ボセ!人間ナドコノ世界カラ駆逐スルノダ!!」
鮮血将軍猪人族の高笑いが響き、誰しもが絶望を顔ににじませた瞬間、異変は起きた。
グシャリ、となにかが潰れた音が、突如響いた。
「え?」
コリスの目の前には光魔法で作られた十字架が魔物の脳天を突き抜け串刺しにしている。
だが、それだけで終わりではなかった。
次々と曇天の空から、無数の聖なる光が行進する魔物達へ降り注がれ、串刺しにしていく。
「な、なんだこれ」
「誰か魔法支援でもしてるのか?!」
城門付近に控えている魔術師たちを見るが彼らのこの現象に驚きの眼で見つめているだけ。
「ナンダ、コレハ?」
鮮血将軍猪人族は、魔物だけを的確に貫く光の十字架に戸惑いを見せた。
その光景に誰しもがは呆然とするも、ひと際強い光がナストリアの上空に現れた。
「
その声と同時に、現れた巨大な十字架が暗黒影竜の体を貫いた。
****
本日の鑑定結果報告
・不屈
スキル所有者が強い危地に遭遇した場合、所有者に対し三倍の力を発揮させる。
タンクを務める者にとって喉から手がでるほど欲しいスキルでもある。
デメリットは、自身で自由に発動することが出来ない。
・
使用者の魔力によって召喚できる魔物が異なり、その魔力の量により大きさは変化する。
魔力により作り出された幻影にすぎないが、敵となると非常に厄介な術でもある。
なぜなら幻影から作り出された魔物は実体がなく、物理攻撃が通じない。唯一、
もし物理攻撃で倒すのであれば術者を倒すしかないが、暗黒影がそれを許さない。
彼らは元は影より作り出された幻影。
術者が死ねば自身も消えることを本能で悟っている為、滴を術者に近づけさせるはずがない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます