第46話 魔物の暴走 (1)
「どういうことだ!?偵察にいった冒険者が行方不明だと!?」
とある一室にて男、ナストリア国冒険者ギルド支部の
萎縮する受付嬢にハッと我に返ったのか謝りながら、ハルロフは頭を抱えた。
偵察に向かわせたのは金クラスの冒険者パーティーだ。
今回
だが、突然彼らの消息が不明となった。
勿論なにかあったときの通信手段なども用意していた。
だが、無情にも通信反応はなにもない。
つまり非常事態が起きたという事だ。
「大変です!ギルドマスター!」
「今度はなんだ!?」
「商業ギルドから緊急通信が!」
「!」
*
「慌てないで!落ち着いて避難してください!」
ナストリアではギルド職員の誘導の元、市民が荷物や家族の手を引いて避難を続けている。
行先は一番近いロロブスへと避難することとなり、馬車は満員に近く少しでもナストリアを離れようと徒歩で移動する者もいた。
あの後、商業ギルドから
偵察からの通信が途絶えた場所は、ナストリアから五キロ離れた場所。
上空からの偵察でようやくその姿が見えた。
多くの魔物がこのナストリアに向かって進行していた。
その数はおおよそ三万以上。
魔物達の進行速度からしてナストリアに到着するのは、五時間後だと推測された。
冒険者ギルドも早急に対処すべくすべての冒険者に“特急”の招集をかけた。
まだ戦力になりえない緑ランクの冒険者には、ギルド職員たちと一緒に市民の移動を補助してもらう。
赤ランク以上の冒険者は皆、この国に留まり
「まさか本当に
移動する市民達の姿を見つめながらハルロフは難しい顔で呟いた。
どの文献でも
だが此方には歴戦の冒険者がいる。
多少犠牲はでるかもしれないが、この国が崩壊すれば魔物は散らばり村を国を滅ぼすだろう。
ナストリアだけで終わる話ではない。
だからこそ命に代えても此処で食い止めなければいけない。
王国側も精鋭部隊とされる騎士を大勢導入してくれた。
また、商業ギルドではありったけの回復薬なども提供し、皆が皆襲い来る
「シノアリスも彼らと避難するんだ」
「何言ってるんですか!?暁さんが戦うなら私も此処で戦いますよ!」
大勢が避難をする最中、暁はシノアリスを彼らと一緒に避難させようとしていた。
本来、商業ギルドに在籍する商人は戦闘員ではない。
なので市民と一緒にロロブスに避難が出来る。
中には回復薬の追加作成をするために、熟練の錬金術士が幾人が残るらしいが、ほとんどは身の安全を優先し避難をしてしまった。
勿論、商業ギルドに在籍するシノアリスや暁も避難する対象だ。
だが鬼人である暁に、どうか
いまは一人でも戦力の手が欲しいのだろう。
暁はシノアリスの避難を条件に受け入れた、だが当の本人は頑なに避難を拒んでいる。
「これから起こる
正直暁の力では、シノアリスを庇いながら戦える自信はない。
「だからなんで守る前提なんですか!?私は相棒ですよ!戦う手段ならいくらでも持ってます!」
確かに大勢の魔物に囲まれるような戦いはしたことがない。
だが二年もシノアリスは一人で旅をし、魔物と遭遇しては素材を採取してきた。
たとえ冒険者のような強い戦闘力はもっていないが決して戦えない訳ではない。
「アカツキ、申し訳ないがシノアリス嬢の避難は難しい」
暁の背後から申し訳なさそうに現れたスルガノフはシノアリスへの避難は不可だと告げる。
その言葉に暁は不快に顔を歪ませた。
「どういうことだ?俺はその条件のもと、ここに残ることに承諾をした」
話が違う、とばかりに殺気が溢れる。
その殺気にスルガノフは、申し訳ないと頭を下げシノアリスが避難できない事情を説明した。
「シノアリス嬢は優秀な錬金術士だ、申し訳ないが残って回復薬の作成に協力してもらいたいんだ」
だが魔物と戦う冒険者をフォローするための回復薬や魔力回復薬がなければ、此方に勝ち目はない。
いま在庫している量で勝利できるとはいえない。
だから、多くの回復薬を生産できるシノアリスには避難をしてもらっては困るのだ。
冒険者ギルド支部の統括長であるハルロフは、暁の相棒であるシノアリスが優秀な錬金術士だと知らない。
だからシノアリスを避難させる条件を飲み込んだのだ。
正直、暁は商業ギルド側の言い分などどうでもよかった。
シノアリスが錬金術士として優秀なのは確かだ。
だが、こんな危険地帯にシノアリスを置いておきたくない。
「私は残ります」
「しかし」
「私の
「・・シノアリス」
「申し訳ない、シノアリス嬢のことは俺やハルロフが必ず守る」
深く頭を下げるスルガノフ、そして信じてほしいと見つめるシノアリスに暁はこれ以上何も言えなかった。
必ずシノアリスを守ることを約束させ暁は前線へと向かった。
前線へと向かい遠ざかる背中をシノアリスは顔を歪めながら見続けた。
本音を言えばシノアリスだって暁を前線に出したくなどなかった。
出来ることなら彼だけでも避難させたかった。
だがいまは少しの戦力でも国は欲している。
亜人であろうが鬼人の力の凄さを彼らは知っていた。
ならせめて、最後まで一緒に戦いたかった。
だから暁の気持ちを知りつつも、シノアリスは此処に残る選択をした。
「ギルドマスター、素材はどれくらいありますか?」
「いまかき集めれるだけかき集めている、多くて1000くらいはいくだろう」
とりあえず作成できるものはすべて作成しようとシノアリスはスルガノフと一緒に商業ギルドへと戻って行った。
*
「おい、あれ・・・」
「亜人だ、」
暁は前線へと足を運ぶ。
周りは当たり前だが、冒険者や騎士で溢れかえっている。
その中で唯一亜人であり、冒険者たちからも恐れられている鬼人の存在はとても目立っていた。
鬼人は冒険者であれば絶対に出くわしたくないと恐れられた種族の内の一つである。
残虐で人の臓器や血肉を好む種族だと言い伝えられ、大好物の血肉が目の前にあれば決して逃がさず骨までしゃぶると言われてる。
それは所詮噂だ。
本来鬼人は戦闘種族だが穏やかな性格ばかりだ、それに血肉が大好物だと言われているが暁は血肉は好きではない。
だが、鬼人とかかわりない人間がそれを知るはずもない。
異質の瞳と除く角に、皆避けるように空間を作る。
たとえこんな危機に瀕していても、亜人を恐れる姿に暁はこれが当然の反応だと分かっていた。
「暁さん」
そんな亜人の手を怖がることもなく掴んで引っ張る存在を、暁は思い出す。
泣いたり笑ったり驚いたり、いろんな表情を暁に見せてくれる。
相手は鬼人なのに、私の相棒だと言う。
シノアリスは人なのに、とても変わった子だ。
けど、決して不快ではない。
素直で明るくて、ふと目を離したら突拍子もないことを仕出かしていて。
そんな彼女を暁は守りたいと思っている。
此処から避難させることはできなかったが、せめてシノアリスだけは守れるようにと暁は拳を握りしめた。
「アカツキさーん!」
ふと聞き覚えのある声に暁は視線を向ける、その視線の先に幾人か見知った姿を見つけた。
以前港町シェルリングで共に戦った“戦う常夏”のメンバーが暁の元へ駆け寄ってくる。
中でも女性であるアマンダは暁の傍に来るや否、暁の背後や周辺を満遍なく見回し始めた。
突然のアマンダの奇行に頭上に?を浮かべつつ黙って見守っていたが、ようやく気が済んだのかアマンダはホッと胸をなでおろした。
*****
本日の鑑定結果報告
・
魔物には活性化する期間が存在する。
活性内容は様々だが、繁殖期や成熟からの進化、力の暴走など多くありまだ解明はされていない。
本来魔物の生態により活性化の時期はそれぞれ異なるが、何百年または何千年かに一度だけ魔物たちの活性時期が重なることがある。
これに遭遇し生き残った国は文献上存在しない。
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