第45話 ???
※暴力表現や胸糞な表現があります。
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それが生まれたのは白銀色の月が空に浮かび、無数の星が輝いている夜のことだった。
自分以外にだれもいない。
どうすればいいのか、何をすればいいのか分からない。たださ迷うようにそれは移動をした。
「 」
どれほどさまよい続けたのだろう、ふと聞こえる喧騒にそれは惹かれるように進みだす。
それらは真っ暗な世界を照らす小さな灯を大きな影が囲んでいた。
時折不思議な香りのするモノに齧りつき貪っている。
草むらの影からジッと覗いていると、一つの視線と交わった。
それは灯を囲む者達とは体格も顔も全く違う。
だけど灯から外れた位置に静かに佇み此方を見ていた。
不思議と恐怖は感じなかった。
どれほど見ていたのか、いつの間にか灯が消え囲んでいた者たちが小さな袋の中に入っていく。
灯も消え月明かりだけが照らされる中、それはそっと未だ静かに佇む存在に近づいた。
--ネェネェネェ
「・・・・」
---ネェネェ、キコエテル?モシカシテネテルノ?
「静かに、彼らが起きてしまうよ」
静寂に満ちた暗闇の中で、そこの声は優しくそれを諫めた。
だけどそれは意味が分からず、また目の前の存在に話しかけた。
「うるせぇぞ!静かにしやがれ!!」
すると小さな袋から怒鳴り声が響いて、それは初めて恐怖を感じた。
咄嗟に本能的に身を縮めたが、ふと自分を包む大きな掌に気付いた。
「静かにしているんだよ」
目の前の存在は、小さく囁いたかと思えばそれを自分の背に庇う。
するとしばらくすれば袋に入っていたものが声を荒げながら、自分を隠す存在に近づき叫んでいた。
怒鳴る存在の言葉が上手く理解できず、それが酷く恐ろしくて怖くて震えていればトン、と優しく撫でる衝撃に気付いた。
トン、トンとそれの体をあやすかのように叩いてくれる、その手の温もりにいつの間にか怖さが消えていた。
気が付けば叫んでいたものはいなくなっていた。
自身を隠していた存在は、そっとそれを地に下ろし「行きなさい」と促した。
なぜだか離れがたくて、足元にすり寄る。
「ダメだよ、見つかればお前は殺されるだろう」
---コロス?ナニヲコロスノ?
「お前は知らなくていいことだ、さぁ行きなさい」
それでも縋りたかったが、再び小さな袋から叫ぶ声に咄嗟にそれは草むらに逃げ込んだ。
「無事に逃げたか」
草むらに逃げ込んだそれにホッとすると同時に後頭部に衝撃が走る。
不意打ちの攻撃に脳が揺れたのか視界がぶれてしまう。
だが、そんなことは主人には関係ない。
「てめぇ!さっきからうるせぇって言っているだろ!!」
「申し訳ございません」
主人は、自分の時間を害されるのを特に嫌う。
それに今日はいつも以上に苛ついていると知っていたので、これは鬱憤晴らしに近いのだろう。
「お前の所為で眠気が吹っ飛んじまった!こい!!俺の安眠を妨害した罰を与えてやる」
途端、喉を締め付ける苦しみに呼吸が出来なくなる。
息苦しさに膝を着き、喉を抑え必死に呼吸をしようとする。
だが必死に呼吸をしようとすることを妨げるかのように器官がしまっていく。
耐えきれず倒れ、もがけば目の前の飼い主は残虐な笑みを浮かべて笑った。
*
夜が去り暖かい光に照らされる中、それは進んでいた。
昨日はとても怖かった。
だけどあの手は暖かくもう一度だけあの手に触れたいと思った。
だが、あの叫ぶ声が再び聞こえたので恐怖で無我夢中で逃げてしまった。
何処に行けばまた会えるのか分からないまま進む。
ふとこちらに向かってくる声にそれは慌てて身を隠した。
「あーったく、やっぱり奴隷にするならメスだな、メス」
それが姿を隠したと同時に彼らは、それの傍を横切っていく。
見つからないように身を縮こませ様子を伺いながら、その声に耳を傾けた。
「本当ですね、オスでは護衛かサンドバックにしかなりえませんから」
「まぁ、頑丈だったから嬲るのは楽しかったんだがなぁ」
「×××さま、良ければウチの商会に来ませんか?いまなら珍しい魚人族のメスが揃っておりますよ」
「へぇ、魚人族はまだ×したことがないな」
なにを話しているのか全く理解できなかったけど、怖いものは去っていく。
ふと一番前を歩いていたものは、昨日小さい布中から出てきて何度も叫んでいたそれだと気づいた。
去っていく後姿を見つめ、それは彼らが去った方向とは反対の方向へ進みだす。
あれがいたのであれば、きっとこの奥にいるのだろう。
いまならあの怖いものはいない。
なら今一度トントンをしてくれるだろうか、とそんな期待を胸にそれは必死に奥へと進んでいく。
カサリ、と草陰を抜ければ求めていた存在がいた。
それは嬉しそうにその場で跳ね、駆け寄った。
----ネェネェ!マタキタヨ!
「 」
眠っているのだろうか。
うつ伏せになったまま身動きもしない、ふとそれは地に落ちた手を見つけ、昨日の暖かな温もりを思い出す。
----アノ、コワイノイナイヨ!ネェ、キノウノアレヤッテ!
「 」
この手触れればまた暖かくなるのかなと、それはその手に縋りついた。
だけど昨日とは全く違う冷たさがそれに伝わるだけ。
----ネェ、オキテ?オハナシシテ?
声をかけても目の前の存在は目を開けない。
どうして起きてくれないのだろう、どうしてこの手は暖かくないのだろう。
どうしてどうしてどうして。
「おや、どうしたんだい?」
ふと降ってきた声にそれは見上げた。
あの怖いものと似た体形で、光の逆向で表情は全く見えない。
だが不思議と怖さは感じなかった。
----アノネ、オキテクレナイノ。ナンドモヨンデルノニ。
「あぁ、もうコレは死んでいるよ。だから呼んでも起きないんだ」
----シンデル?オキナイノ?オキナイノ?
「そうだよ」
それは“死”の意味をよく理解していなかった。
ただただもう動くことのない存在に何度も何度も起きて、と繰りかえす。
それを眺めていた者は理解したかのように手を合わせた。
「そうか、君はコレと仲良しなんだね。じゃあ僕が一緒にしてあげよう」
丁度、持て余していたモノがあったんだ、と言いながら、それを持ち上げ冷たくなっている存在に重ねる。
その瞬間、それの中に不思議な声が響いた。
『スキル“**”を発動させます』
「さぁ、これでずっと君たちは一緒だよ」
その声を最後に。
それは深い、とても深い暗闇の底に沈んでいった。
*
いつもと変わらない平穏な日々を過ごしていた。
仲間と妻子に囲まれ、人族に見つからないよう山の奥深くで彼らは生活をしていた。
「おとうさん!みて!」
「あらあら、ダメよ。お父さんの邪魔をしちゃ」
駆け寄ってくる幼い息子に、彼は狩猟用の弓を制作していた手を止めて息子を抱き上げた。
大好きな父親に抱き上げられ嬉しそうに声をあげる息子に、周囲の仲間も彼の息子を可愛がるように声をかけてくる。
その一日一日が愛おしく、幸せだった。
だが、その幸せは獣人狩りという残虐な侵略により壊された。
轟々と炎が故郷の森を焼き尽くしていく。
「おら!弱いな!×××は!」
次々と首を落とされる仲間達。
「おいおい、メスの体はあんまり傷つけるなよ!価値が下がる!」
メスの臓器は売り物になると解体される妻。
「んん~!うめぇ!やっぱり新鮮な肉は最高だな!!」
そして成熟した大人と違い、子供の肉は臭みがなく美味いと肉をそぎ落とされ目の前で食われていく。
村を燃やし、仲間を殺し、ぐちゃぐちゃに内部を暴き、大切な我が子を食べていく。
その残虐な光景と燃え盛る炎を彼はただ見つめることしかできなかった。
「おのれ、おのれぇぇぇええ!人間ども!!」
沸々と心の奥底から沸き起こる怒りと憎しみに支配される。
一番体が大きく強いからという理由で、奴隷にするために生け捕りにされた彼。
手足を杭で貫かれ、地に縫い付けられた体を必死に動かす。
だが全く動けない彼を、人はまるで芋虫だと嘲笑った。
眼がチリチリと熱くなる。
沸き溢れる憎悪が全身を包んでいく。
「許すものか!この恨み、憎しみ!お前らを決して許さんぞぉぉぉぉ!」
----人間、許サナイノ?
不意に聞こえる幼い声に彼は血反吐を吐きながら、燃え盛る炎に誓うように叫ぶ。
「あぁ、そうだ!私の仲間を、妻を、子を奪った人間を許すものかぁああ!」
----人間ヲ、ドウシタイノ?
「勿論復讐だ!我が兄弟を!仲間を!妻を!子を!!それらを全て奪ってやる!!」
----復讐、復讐シタインダネ。
呪いの言葉を吐き捨てていくと同時に黒い影が現れる。
それを気にすることなく吐き捨てていけば、黒い影は全身を覆っていく。
皮肉なことに彼の奥底に眠っていた復讐と狂気を、それが**してしまう。
まるで爆発が起きたように真っ黒い影が噴き出し木々の生命を、周辺にいた動物の命を奪い取る。
そっと視界をあければ枯れた木々や干からびた動物が横たわっていた。
不意にパチパチと拍手する音に、惹かれるように振り返る。
「こんなに上手く**できるなんて、とても仲良しなんだね」
ニタリと目の前の者は歪に口端を釣り上げて笑っている。
「さぁ、もうずっと一緒だ。やりたいことをやっておいで」
やりたいこと?
あぁ、それなら復讐だ。
「復讐ヲ、復讐ヲシテヤル、皆殺シダ」
『 スキル“**”により×××と××××が融合に成功しました 』
『 ×××は特殊条件達成により進化しました 』
『
*****
本日の鑑定結果報告
** 解読不能、鑑定できませんでした。
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