第44話 樹の精霊(4)
森の管理者であり、妖精族の頂点に立つ
彼らは滅多に姿を見せない。
最後に見た記録では100年も前しかないほど、彼らは外の世界と交流をしない種族であった。
「
『ほぉ、吾を知っておるのか人の子よ』
シノアリスが自身を知っていることを嬉しげに笑う
ドライアドもそうだが、妖精や精霊は過去に“妖精狩り”という残虐な狩りの被害にあい数は激減し今では御伽噺な存在ともいえる。
妖精や
多くの種族が今もなお彼らの存在を求めている。
中でも例を挙げれば“妖精の眼”。
以前ヘルプでも見たが、妖精の眼は人でも獣人でもステータスをその目に写す。
その眼欲しさに欲に満ちた者が彼らを狩り、その深い傷跡により妖精が身を隠すようになり今では御伽噺なほどである。
お伽噺のような存在が現れて困惑しないものはいないだろう。
「
『ふむ、そなたはシノアリスと言うのだな』
「え、あ、はい」
『羨ましいの、吾らは皆樹の精霊で一括りされるからなぁ』
カシスも暁も内心舌打ちを零した。
出来ることならすぐに引き離したいのに、シノアリスが樹の精霊の腕の中にいるため下手に身動きがとれない。
そもそも樹の精霊も御伽噺と言われるほどこの世に姿を見せなかったので強さは全く未数値である。さらに暁もカシス達も気づいている。
自分たちを囲む多くの視線に。
「・・・くそ」
その数は計り知れないほどの気配だった。
姿は見えずとも暁のスキル“気配察知”により大勢の
カシス達も、本能から取り囲まれていることに気付いており二の足を踏んでいる。
つまり木が、森がある場所であれば何処にでも現れるのが
囲んでいるのは間違いなく同じ
「あの・・・」
『なんだ?人の子よ』
「私たちになにかご用事ですか?」
張り詰めた空気の中、唯一警戒心が全くないのがシノアリスだった。
抵抗する気配もなく不思議そうに
『人の子、いまどのような状況になっているのかわかっておるか?』
「えっと沢山の
『ほぉ、良く気付いたな』
「暁さんやカシスさん達が凄く周囲を警戒しているから、囲まれているのかなぁって」
シノアリスには獣人にように聴覚や嗅覚は優れていない、暁の持つスキル気配察知をもっていない。
だが周囲の様子を見ることはシノアリスにだってできる。
『そうかそうか、ならお前は何故警戒しない?』
「いや害するつもりなら既に害してますでしょうし、なにより」
『なにより?』
「
『・・・・』
その言葉に
『悪戯好きで寂しがり屋・・・そう、教わったのか?』
「?はい」
『ふむ、そうか・・・ん?』
「?」
その様子にシノアリスは頭上に?を浮かべながら見守っているも。
『なるほど、そういうことか』
納得したように頷いた
その瞬間、暁たちを取り囲んでいた気配が一斉になくなり、暁達は戸惑いながら
だが、暁達など眼中にないと言うように
『お前は、かの者から慈しみの加護を受けているな』
「慈しみの加護?」
『ならば人の子、お前は吾らの
「??まったく展開についていけないのですが」
全く展開についていけないシノアリスの顔は、宇宙猫のような顔になっていた。
『愛し子であるなら、これから起こる悲劇を教えてやらねばなるまい』
「悲劇?」
『あの国は、近いうちに
「「「「!?」」」」
「・・・
商業ギルドのスルガノフが言っていた。
魔物が相次いで出没しており魔物の暴走の可能性があるかもしれない、と。
だが不思議とシノアリスは
「それは本当なのか?」
『
マリブの言葉に
だが、それが真実だとすれば直ぐにでも避難警告を出さなければ国は完全に滅んでしまう。
『早くお逃げ、愛し子。
「!それは、どんな魔物ですか?」
『ふむ、詳しくは知らんなぁ。森を食われてしまったからのぉ』
ただ、と
『
「
『吾とて
彼らはゴブリンキングのように引けを取らない巨体と黒い毛並と血液を持つ。眼は赤く、口から生えた硬い牙。そしてかぎ爪の生えた長い腕を持っている。
素早さは他の獣人に劣るが、その力は鬼人に引けを取らないとされている。
だが彼らは魔物ではない。
「どういうことだ?獣人が魔物化したっていうのか?」
『吾が知るわけがなかろう』
元々魔物との違いは進化にある。
文明を作り社会を作り上げたのが種族、逆に己が本能のままに食らい破壊を繰り返すのが魔物である。
人も鬼人も一歩踏み違えていれば魔物と同じだ。
「すまない、
『なんじゃ、鬼人の若造』
「この森に現れたのも、魔物の暴走が理由なのだろうか?」
『あぁ、あやつらは我等の領域を侵略しつつあるのでな。巻き込まれる前に移動をしておったのだ』
だから本来出会えるはずのない
『では我等は行くよ、愛し子。もしまた出会えるなら我らが故郷に招待しよう』
「え!?もしかして妖精郷のことですか?!」
妖精郷は、まさに妖精や樹の精霊が暮らす楽園のことだ。
既に伝説と言わん場所に招待してくれるという言葉にシノアリスは驚きと感激で目を輝かせた。
何故なら妖精郷には、御伽噺に出てくるような夢の素材が沢山実っている。
錬金術士なら死ぬ前には行ってみたい夢の場所でもある、そんな夢の場所への招待に喜ぶシノアリスに
『さらばだ、愛し子よ。また逢う日を楽しみにしておるぞ』
まるで空気に溶けるように消える
強い風が一風し、思わず顔を両腕で覆う。ようやく風が止んだと目を開けば目の前の景色にシノアリスは愕然とした。
森の木が全て枯れていたのだ。
先ほどまで美しい緑で溢れていたのに、花も草木もまるで生命を失ったように枯れている。
「うそ、こんな・・・」
「シノアリス!無事か!」
「あ、かつきさん。はい無事です」
即座にシノアリスに駆け寄り、五体満足を確認した暁はホッと安堵の息を零す。
もし
「すまない、俺がもっと周囲を警戒していれば」
「大丈夫ですよ、暁さん。それに
その教えも絶対とは言い切れないではないか、と言いかけようとしたが真っすぐと信頼に満ちた目で見つめるシノアリスに暁は言葉を詰まらせた。
だが、その信頼に満ちた目を見たからこそ
「とりあえず、今はナストリアに報告に戻りましょう」
シノアリスの言葉に暁もマリブも急いでナストリアへと戻るために早足でその場を去ったのだった。
「そういえば、アリスちゃんは
「私に錬金術を教えてくれた、おばあちゃんから教わったんです」
「シノアリスの博識はその方からなのか」
「はい。エルバおばあちゃんはエルフでしたから、とっても博識でしたよ」
「「「はぁあああ!?」」」
****
本日の鑑定結果報告
・
森の管理者であり、妖精族の頂点に立つ妖精王と並ぶ最高位の精霊である。
特徴はエメラルドのような髪と瞳。
頭には花の冠をつけている。
妖精の眼は持っていないが、森がある場所はすべて彼女たちの領域なので隠し事は不可避。隠し事したいなら森のない火山地に行くしかない。
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