第39話 【幕間】ギルド受付嬢ロゼッタの直感
ナストリア国商業ギルドに在中する受付嬢ロゼッタは、少し変わったエクストラスキルを持っていた。
スキル名は“直感”
スキルの所為なのかロゼッタは幼い頃から、勘が働く子だった。
最初は遊び半分で聞いていた父親も、段々と子供のロゼッタに相談することが多くなり気が付けばロゼッタの父は故郷の領主補佐を任されていた。
ロゼッタがギルドの受付嬢として道を進んだのも、また彼女の直感からだ。
その直感に従ったからなのか。
彼女は、とある少女と出会うこととなる。
「お断りします」
とある一室にてロゼッタは香り高い紅茶を一口飲み、向かい側に座っている男に向けて微笑んだ。
その傍には青褪めた商業ギルド支部のトップである
なぜ青褪めるのか。
いまロゼッタがいる部屋は商業ギルドの応接室、そして向かい側に座るのはナストリア国の宰相“ベルカノーゼ・アゼンシュタイン”に対しての対応に青褪めていた。
「ほぉ、王からの王命に逆らうと?」
「逆らいたくて逆らっているのではございませんわ」
「なら何故断りをいれたのかね?」
静かな目で見てくるベルカノーゼにスルガノフは蛇に睨まれた蛙のように震えている。
だがロゼッタは変わらず美しい笑みを浮かべながらハッキリと告げた。
「それをすれば“放浪の錬金術士”がこの国を去るからです、そして二度とこの地に訪れないでしょう」
「「!?」」
ナストリア国の宰相ベルカノーゼがこのギルドにやってきたのにはある目的があった。
国王が放浪の錬金術士との謁見を望んでいる。
この国の王からの要請を爵位もない平民が断るなどできはない、だがその対象の居場所が分かっていればの話。
放浪の錬金術士がこの街に滞在し、尚且つ商業ギルドに商品を卸していることは既にリサーチ済みだ。
だが、その人物までにどうしてもたどり着けない。
権力で情報を暴いてもいいが、それをすれば王室への評価に大きなダメージを与えかねない。
だから本人が謁見を受け入れるように直接対面すべく、ギルドへ面会を申し出たのだ。
結果、唯一放浪の錬金術士と接触するロゼッタからは無碍もなく拒否されてしまったのだが。
「ロゼッタ嬢、それは君のスキル“直感”から申しているのかね?」
「はい。お疑いならベルカノーゼ様ご自身の力で放浪の錬金術士をお見つけください」
きっと放浪の錬金術士はそれを察知した瞬間、霧のように消え去るでしょうとロゼッタは返す。
それは困る。
もし本当にそんな結末になれば、一番危ういのはベルカノーゼの首となる。
王になんと報告すべきかと頭を抱えるベルカノーゼにロゼッタはニッコリと笑みを深める。
「このまま放浪の錬金術士に手を出さなければ、あの方はすぐに此処を離れようとはしませんでしょう」
「それも君の直感か」
「はい」
ロゼッタの言葉にベルカノーゼは静かに彼女の真意を探るように見つめる。
だがうまく仮面をかぶっている所為で全く読めない。ここで粘っても時間の無駄だろうとベルカノーゼはこれ以上とどまっても無意味だと立ち上がる。
「わかった、王には私からうまく説明しよう」
「ありがとうございます」
部屋を去っていくベルカノーゼに、スルガノフは深くため息を吐き出した。
「あぁぁぁああ、くそロゼッタぁ、生きた心地がしなかったじゃねぇえかぁああ」
「知りませんよ、ギルドマスターが小心者なのがいけないのでしょう」
「誰が小心者だ!だれが!!」
始まりは、ロゼッタがまだ成人前くらい少女を連れて商業ギルドに訪れたのがすべての始まりだ。
あの日、ロゼッタは休み時間だった。
なんとなく外に出た方が良いような気がして、特に食べたいものがあるわけでもないのにウロついていたとき、困ったように左右を見渡している白銀の少女がいた。
声をかけるべきかと思案しつつロゼッタは困っている姿を眺めていた瞬間、直感が働いた。
彼女を逃してはいけない。
その直感に従うように、ロゼッタは少女、シノアリスに声を掛けていた。
初めてシノアリスに出会ったとき、今の彼女とは比べ物にならないくらい壁を感じていた。だがロゼッタの優しさやシノアリスの素直な性格もあり、今では甘えてくるように抱き着くこともある。
まるで妹が出来たみたいでロゼッタもシノアリスを可愛がっていた。
最初はシノアリスが放浪の錬金術士だとは夢にも思わなかった。
だが、それを示す黒猫のマークや品質、また放浪の錬金術士しか作れないはずの魔道具を彼女は簡単に納品させた。
これは危ないとロゼッタの直感は即座に働いた。
直ぐにスルガノフに報告し、シノアリスの受付はロゼッタ限定であり彼女が放浪の錬金術士であることがばれないよう徹底的にバックアップに動いた。
スルガノフも最初はシノアリスが放浪の錬金術士だと信じていなかったが、彼女の実力がそれを証明させた。
シノアリスの受付がロゼッタ専属なのは問題ない。
なぜなら、シノアリスは他に窓が空いていてもロゼッタの列から動かないからだ。前に手が空いていた受付嬢が声をかけたときもお礼を述べるもロゼッタの列にいたいと言われた。
そして自身の番になったとき、それは満面の笑みでロゼッタの傍に駆け寄ったそうだ。
さながらご主人を待つ犬のようだった、と対応した受付嬢は言った。
その話を事前に知っていたのか、他の受付嬢達はそうしてあげなさいと逆に勧められたくらいだ。
「だが、確かにいま放浪の錬金術士がこの街から出ていかれるのは困るな」
「・・・・やはり、合っていましたか」
「本当ロゼッタの直感は凄まじいな」
スルガノフの言葉にロゼッタは顔をしかめる。
出来れば、外れていてほしかったと言わんばかりの表情だった。
「本来なら街にC級の魔物が入ってくることは確率的にありえない」
「また、青の森では本来生息しないブラックタランチュラも目撃されています」
「あとはなんだ、ワーウルフだったか?街道に出現したそうだな」
「さらにはゴブリンの群れ。そしてロロブスの下り水路に魔物の出現など」
「止めは、ホワイトオクトパスとレッドクラーケン同時出没・・・・もうほぼ確定じゃねぇか」
上がってきた報告書の数々にスルガノフは頭を抱えた。
ここまでくれば、この現象が何を示すのか彼らは直ぐにわかる。それは同じギルドである冒険者ギルドの方も同じだろう。
スルガノフはふと窓から見える曇天に顔を歪ませる。
まるでこれから起こる悲劇を表すかのような天気だったから。
「
****
本日の鑑定結果報告
・直感
ロゼッタのエクストラスキル。
彼女が少しでも何かを感じたとき、それは必ず何かがある証拠。
シノアリスと出会ったのも、狼の鉤爪の件もすべてこの直感から来ている。またロゼッタの直感が何度か王国の危機を救っていることもあるのでギルドや王国側も疑いづらい。
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