第25話 鬼人と少女(6)
気絶しただけだが一日安静を言い渡されたシノアリスは、翌日病院を退院しイブリの花を採取するために再び森にやって来た。
イブリンの巣穴をゴブリンによって荒らされたので、花が咲いていないのではと不安だったがゴブリンキングの寝床に数本生えていたのを見つけた。
無事素材を採取できた・・・シノアリスはご機嫌で巣穴を出るも、ふと思い出したように後ろを歩く暁へ振り返った。
「あ、アカツキさん!忘れていました、これ」
「これは・・・」
シノアリスがホルダーバッグから取り出したのは、黒のグローブ。だが指先の部分だけは剥き出しになった少し変わったグローブだった。
これは前世の記憶から得た“タクティカルグローブ”をモデルに作った暁の為の武器である。
昨晩、外傷という外傷がなく寝てばかりでシノアリスはとても暇だった。
そんな暇つぶしも兼ねて暁の武器を丁寧に病室で作り上げた最高の武器でもある。
「着けてみてください!」
「あ、あぁ」
シノアリスに言われるがまま着用すれば、見た目からしてとても軽かった。
「このグローブは軽量化されているので身に着けても重くないはずですが、どうですか?」
「あぁ、着けているとは思えない」
「良かった!あと他にも“
「そういえば、あの薬にも・・・」
「はい、すっかり説明するのを忘れていたのですが」
命の雫に付与した“
「まず、そのグローブには
「
「はい、例えば足に力を籠めれば脚力が通常よりも強化されます」
集中強化とは。
集中したい場所に力を送るイメージをすればその部分が瞬時に強化される。
つまり足に集中すれば、獣人以上の脚力で走ったり飛んだりできる。また拳に力を送ればさらに強い力で打撃や防御することができるスキル。
「なるほど、もう1つの“
「沢山あって迷いましたが、
解除とは。
相手の魔術防御や結界、“
ちなみに呪いなどは対象外である。
「ちなみにどちらもアカツキさんが意識しないと発動しないので注意してくださいね?」
「あぁ、分かった」
この解除のスキルは、下手をすれば厳重封印をした結界すら破られる恐れのあるスキルでもある。だがシノアリスは全くその危険性に気付いていなかった。
暁もそのスキルの危険性に気付いているのかいないのか、装着したグローブを確かめるように手を動かしている。脚力に集中するように目を閉じればまるで羽のように軽くなっていく。
「凄いな、シノアリスは」
「いひひ、そうですか~?まぁ、私は天才錬金術士ですからね!」
胸を張りつつドヤ顔するシノアリスに暁は思わず笑みを零す。
何故かシノアリスが言うと嫌味には聞こえないのはなぜなのか、寧ろ微笑ましさを感じてしまう。
「だがシノアリスには貰ってばかりだな」
「いえいえ、これから素材採取で沢山手伝ってもらいますから!」
シノアリスで補えない部分を暁に補ってもらう。
そうすることで今まで手を伸ばすことの出来なかった素材や魔道具が作れる。そのために暁の補助になれる物があるのならシノアリスは惜しまず彼に与えるつもりだ。
「ナストリアに戻ったら、商業ギルドに登録しましょうね!」
「あぁ」
冒険者ギルドで登録するのも考えたが、暁はシノアリスと同じギルドで良いと言ってくれたので商業ギルドで登録することになった。
シノアリスは初めての相棒との旅に胸が躍るのか帰路の足取りが軽くなる。勿論アホ毛も踊る。
「シノアリス、止まってくれ」
「はい」
ふと暁の言葉にシノアリスは足を止める。
思わず暁の方を振り返れば、強い眼差しで前方を見据えていた。暁がシノアリスを背後に庇うように前にでると同時に、それは姿を現した。
「グルルルル」
「あ、ワーウルフだ」
草陰から現れたワーウルフの群れ。
数は20匹とかなりの数だ。
食べ物を求めてさ迷っていたのか涎を垂らし興奮した状態でシノアリス達をみている。対するシノアリスは、ワーウルフは食用にならず素材になる物もあまりないのでテンションはやや下がった。
「少し下がっていてくれ」
「手伝いましょうか?」
「いや、これぐらいの数ならいけそうだ」
大丈夫だと笑う暁にシノアリスは信頼を込めた笑顔で頷き数歩離れる。シノアリスが離れたことを確認した暁は指を鳴らし、ワーウルフと対峙する。
ふとシノアリスのくれたグローブの性能を試してみるかと暁は補助付与の
「
元々、集中強化は武闘家などが取得しやすいスキルでもある。
その威力はスキルを得た人物により異なる、だがシノアリスは“
そのため、暁に付与された
それを知らない当人と忘れている本人を除き、ワーウルフのリーダー格は暁に纏う力に一瞬だけ本能から身を引いてしまう。
畏怖で身を引いてしまったことに動揺しつつも、ここで食べ物を逃すわけにはいかないと配下に一斉に飛び掛かるように命令を下した。
「ウォォォォォン!」
「はぁあ!」
ワーウルフの遠吠えと暁の呼吸が重なる。
が次の瞬間、ドォオンと激しい音を立てて森が大爆発した。森の半分の木々や土、そしてワーウルフや隠れていたゴブリンなどが爆発に巻き込まれ吹っ飛び地に叩きつけられていく。
「「・・・・」」
リーダー格のワーウルフは消し飛んだ左半分の景色を呆然と見つめ、暁も打ち込んだ姿勢のまま吹き飛んだ森を見ていた。
「おー!アカツキさん凄い!!」
その空気が読めていないのかパチパチと拍手をするシノアリス。
リーダー格のワーウルフは静かに暁の傍に歩み寄り、腹を出して寝ころんだ。
「キュゥゥン」
服従の意味で腹を見せて降伏を示すワーウルフ。
その選択は間違っていない。あの光景を見せられて飛び掛かっていくなどAランク並の魔物でなければできない所業だ。
「・・・シノアリス」
「はい?なんですか?」
「凄いな、このグローブは!流石天才錬金術士だ!」
「いひひ、照れるなぁあ~」
和やかな会話をする2人は知らない。
ワーウルフは、その命がいつ奪われるか青褪めつつ命乞いを続けていたことも。
そして、実はシノアリス達にお礼を言おうと後を追ってきた戦う常夏が吹き飛んだ森を見て滝のように冷や汗を流しながら見ていたことなども。
その噂はナストリアにまで届いた。
ロロブスではとある話が噂になっている、と。
白銀の少女が鬼人を連れ従い、襲い来る魔物に対し森や道を破壊するまで叩きのめしている。
それらに逆らえば、見せしめの様に半壊した森の二の舞にされる。
けして鬼人と少女には手を出すな、と。
「マリブ!ロロブス行の依頼はないのか!?」
「あればとっくに受けている!」
「一体なにをしたんだ、アリスちゃん」
「へぶしっ」
「シノアリス、風邪か?」
「うーん、たぶん屋台のおっちゃんの串焼きお肉が私を呼んでいるんだと」
「・・・・・そうか」
そんな噂が流れているなど、知らないのは当の本人だけ。
****
本日の鑑定結果報告
・
集中したい場所に力を送るイメージをすればその部分が瞬時に強化される。
その威力は能力次第により変動する。
基本2倍強化、だがシノアリスのチートにより最大30倍強化仕様になっている。ナンテコッタイ/(^o^)\!!
・
防御や結界、“
尚呪いは対象外。
下手をすれば厳重封印をした結界すら破られる恐れのあるスキル。ある意味厄災並のスキルだとシノアリスは全く気付いていない。
また数の多さにより、あみだくじで決定したようだ。
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