第8話 狼の鉤爪(3)


「受けます、この依頼。いや、受けさせてください」


マリブは真剣に答え、書類にサインをする。

これにて契約は完了。

狼の鉤爪はシノアリスをスズの湖までの護衛をし、シノアリスは達成報酬として金貨7枚と変身薬、特効薬、解呪の針の3品のアイテムを渡す。

勿論依頼が失敗すれば、狼の鉤爪には報酬は入らず違約金をギルドに払うようになる。


「シノアリス嬢、出発は何時をご予定で?」

「え、あ・・・明日からで良いですか?此方も準備をしたいので」

「分かりました、では明日の明朝に正門でお待ちしてます。距離があるため、途中までは馬を使いますが森の中では徒歩になります」

「わかりました、よろしくお願いします」


先ほどよりも丁寧な言葉で進行するマリブにシノアリスは流石現役のプロだなと心の中で感心する。馬の調達は商業ギルドが用意してくれるので問題はないので、それぞれの準備の為に解散となった。

シノアリスは、準備の為に市場へと向かう。

勿論、彼らの食事や自分の食事などを用意するためだ。


「あれ?でもさっきロゼッタさん、3食ご飯付きのこと言ってなかったような・・・・」


雑貨屋で木の食器を選んでいたシノアリスは、部屋でのやり取りを思い出そうとするが、きっとロゼッタの言い忘れだろうと納得をし、食器類を購入する。

今まで1人で旅をしていたので、誰かと冒険に出るなど初めてだ。いままで必要なかった物には目を向ける事すらしなかったが、どれもこれも目移りしてしまう。


コップは木製でいいのか、寝袋はどれがいいのか、夜の見張り時に寒かったらいけないから毛布を用意した方がいいのではと目を輝かせては次々と品物を選んでいく。

気が付けば、テーブルには巨大な山が2つも鎮座していた。


「え、っと・・・お会計金貨12枚と銀貨6枚になります」

「あの!」

「はい?」

「これ以外に冒険で必要な物はありますか!?」


いや、寧ろ不要な物が多々ありますが、と言いかける。だが目の前で目を輝かせ興奮気味に鼻息を荒げているシノアリスにドン引きしてしまい、首を左右に振った。

シノアリスは丁度の額を渡し、ホルダーバッグへと収納していく。

店員もこんな子供が収納バッグを所有しているのに驚いたのか、放心してしまう。


「次は食材だ!マリブさん達はなにが好きかな?お肉とか?肉?にーくーとか?」


誰かと冒険するのが、こんなにもワクワクするなんて思いもしなかった。

シノアリスはいつも以上に身軽な足取りで、走り出す。が、ふとシノアリスの視界に一瞬だけ見覚えのある顔が映った。

茶髪のふわふわ髪の男、前髪で目元が隠れていて表情が良く分からなかった人だ。


「あ、狼の鉤爪さんだ」


シノアリスは、ふとこれは彼らの好きな食べ物を聞くチャンスだと、その背へと近づいた。

近づく気配に相手も気づいたのか、ゆっくりと振り返る。声を掛けようと中途半端に手をあげていたシノアリスは、声を掛ける前に振り向かれたことに少しだけ驚きながらも挨拶をした。


「こんにちわ、さっきは依頼を受けてくださってありがとうございます!」

「こんにちわ、お嬢さん。いいえ、決めたのはリーダーですから。お礼はリーダーに行ってください」

「確かに依頼を承諾してくださったのはマリブさんですが、実際護衛してくださるのは狼の鉤爪の皆さんですから、皆さんにお礼を言うのは当然です!」

「・・・・そう、ですか」


前髪で表情は全く分からないが、シノアリスの言葉に相手はなにかを思ったのか言葉を詰まらせていた。その様子にシノアリスも首を傾げたが、用件を済ませようと切り出した。


「狼の鉤爪さんの好きな食べ物はなんですか?」

「は?好きな食べ物?」

「はい、依頼内容に3食ご飯付きと書いてたでしょう?せめて狼の鉤爪さんの好きな物も作りたいと思いまして」

「あれ本気だったの?」

「え?」

「え?」


なんと狼の鉤爪は3食ご飯付き、オヤツもサービスを冗談だと思っていたのか。

エクストラスキル【ヘルプ】では“福利厚生”を充実させることが人材を集めることの必須だと知識を得た、また前世の記憶でも“福利厚生”の大切さをシノアリスは知っている。

なのにまさか冗談だと捉えられていたとは。

シノアリスは衝撃で青褪めプルプルと震えている。先ほどまで楽しかった気持ちがどんどんと萎んでいきアホ毛も気持ちを表すように項垂れた。これは恥ずかしい。


「・・・ぷっ」


不意に噴き出す音にシノアリスは俯きかけていた顔をあげれば、目の前の人は口元に手を当てて必死に笑いを堪えていた。

だが彼を責めれるはずもない。

冗談だと思われる内容を書いたシノアリスに非があるのだ、此処は甘んじてこの羞恥を受けようと歯を食いしばる。だが、ポンと大きな手がシノアリスの頭に乗り撫でるように左右に動く。

思わず視線を上げれば、彼は優しい手つきでシノアリスの頭を撫でていた。


「いや、笑ってごめんね。まさか本気で3食ご飯やオヤツを提供しようとしているとは思わなくて」

「いえ、私が無知だったのがいけないんです」

「でもそれなら、あの依頼内容も納得だよ」

「なにか問題あったんですか?」


ロゼッタや冒険者ギルドでも特に指摘はなかったので、彼の言葉には引っ掛かりを覚えた。だが店前でずっと立ち話をしていた所為か店主に怒られたので、2人は慌てて場所を移動する。

移動先は以前ロゼッタに教えてもらった喫茶店だ。


「まずは改めて、俺はルジュ。狼の鉤爪では参謀やマッピング、料理や素材の保管を担当してる」


ルジュの説明に冒険者にも担当があるのかとシノアリスは感心する。


「さっきの内容だけど。お嬢さんは“難易度”という言葉を知ってるかな?」

「?」

「やっぱりね」


苦笑するルジュは、シノアリスに丁寧に説明をしてくれた。

難易度とは、冒険者ギルドが実地調査をして定めたランクのこと。また彼ら冒険者たちにも、それぞれランクが存在する。

ランク付けはこれまで達成した依頼の成功率や実力により付けられる。


依頼の難易度は全部で5種類存在する。


・-C級

主に雑用系の依頼。配達であったり、掃除、近隣周辺の素材採取。まさにおつかいレベル。

・C級

Cランク以下の魔物討伐が多い。

・B級

Bランク魔物討伐、護衛が主。長期任務が多い。

赤でも受注できるがパーティ人数や実力をかなり審査される。銀が主に受注する。

・A級

Aランクの魔物討伐が主。または王家の護衛などもある。

受注できるのは金クラス以上。

・特級

冒険者ギルド長の権限で緊急時に発生される。

魔物の暴走スタンピードやAランク魔物の襲撃などに使用される。これが発生した場合、冒険者ランク赤色以上は強制参加される規律。


「ちなみにお嬢さんが出した“スズの湖”までの護衛。あれは“青の森”を抜けなくてはいけない。それは知ってるね?」

「はい」

「青の森はブルートレントが主に生息している森でね。森の範囲が広く迷いやすい、更にブルートレント自体討伐レベルがBランクだから、この依頼の難易度は【B級】」


つまり難易度が高すぎて、受ける人がいなかったという訳なのだ。

今までシノアリスはエクストラスキル【ヘルプ】により難しい調合やスキルの取得などをチート解決していた。だがチートがなければ調合にも難易度は存在する。

思わぬ落とし穴があったとシノアリスは自分の甘さや無知に項垂れた。


「あ、あの…」

「ん?なに?」

「差し支えなければ冒険者さんのランクとか教えてもらえませんか?対価は、ここのご飯代で!」


無償で教えてもらおうとは思わない。

元より自身の無知が原因なのだ、頭を下げるシノアリスにルジュは前髪で隠れた目尻が少しだけ下がりつつもシノアリスの要求に答えた。


冒険者のランクは全部で5種類存在する。


・白銀

世界で7人しか持っていない。Aランクの魔物を簡単に討伐できるほどの実力の持ち主。

・金色

主にパーティークラス。大抵新しい遺跡やダンジョンを調査する際に依頼される。

単独のみの金色は3人のみ。

・銀色

Bランククラスの魔物を討伐できる実力者。

護衛や素材採取などを行っている人が多い。

・赤

駆け出しから脱出した組。受注できる難易度はC級まで。

条件によってはB級の難易度も受注できるが条件が大変厳しい。主に魔獣の討伐などを受ける人が多い。

・緑

駆け出しクラスの冒険者。

主に雑用系の依頼をこなしたりする。このクラスは基本難易度【-C級】しか受注できない。



「ルジュさん、いえ狼の鉤爪さんは」

「俺達のランクは銀色だよ、でも少し訳ありでね」

「訳あり、ですか?」

「残念だけど秘密だよ、俺達パーティーでは大事な内容だからね」

「?」






宿屋に戻ってきたシノアリスは軽装となりベッドへと寝転ぶ。

あの後、シノアリスはルジュから冒険者のことを様々と教えてくれた。

また余談だがシノアリスが購入した莫大のお買い物の内容を聞いたルジュが、耐えきれず噴き出し笑い転げ椅子から転倒したのだった。


基本冒険者は収納バッグを持つが、全て容量がある。

シノアリスの愛用しているホルダーバッグには制限がない、がそれらを所有している人物はまずいない。

大富豪の家を丸々収納できるほどの収納量をもったバックなどは金色や白銀などの高ランクが所有するくらいだ。


ルジュが愛用している収納バッグも容量がシノアリスの買い物した量の6分の一しか入らないという。

これにはシノアリスも驚いた。

商人達は物を売る仕事が主なので、商人達や錬金術士にはシノアリスの買い物した量の2分の1は収まるバッグを愛用している。

やはり冒険者と商業ではこんな違いがあるのだとシノアリスは感心した。


別れ際にルジュはシノアリスの頭を撫で、最後まで護衛するから心配することはないと言ってくれた。

優しい人達だ、と改めて思う。

ならせめて、任務完了までは少しでも彼らの負担を取り除けたらとベッドから体を起こしシノアリスはスキルを発動させた。


「スキル発動、ヘルプ」





****


本日の鑑定結果報告


・難易度とランク

冒険者ギルドが実地調査をして定めたクラス。

彼ら冒険者たちにも、それぞれランクが存在する。ランク付けはこれまで達成した依頼の成功率や実力により付けられる。


・-C級

主に雑用系の依頼。配達であったり、掃除、近隣周辺の素材採取。まさにおつかいレベル。

・C級

Cランク以下の魔物討伐が多い。

・B級

Bランク魔物討伐、護衛が主。長期任務が多い。

赤でも受注できるがパーティ人数や実力をかなり審査される。銀が主に受注する。

・A級

Aランクの魔物討伐が主。または王家の護衛などもある。

受注できるのは金クラス以上。

・特級

冒険者ギルド長の権限で緊急時に発生される。

スタンピードやAランク魔物の襲撃などに使用される。これが発生した場合、冒険者ランク銀色以上は強制参加される規律。


ランクは全部で5種類存在する


・白銀

世界で7人しか持っていない。Aランクの魔物を簡単に討伐できるほどの実力の持ち主。

・金色

主にパーティークラス。大抵新しい遺跡やダンジョンを調査する際に依頼される。

・銀色

Bランククラスの魔物を討伐できる実力者。

護衛や素材採取などを行っている人が多い。

・赤

駆け出しから脱出した組。受注できる難易度はC級まで。

条件によってはB級の難易度も受注できるが条件が大変厳しい。主に魔獣の討伐などを受ける人が多い。

・緑

駆け出しクラスの冒険者。

主に雑用系の依頼をこなしたりする。このクラスは基本難易度【-C級】以外受注できない。

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