待っていた知らせ


エウセビアが無事に男の子を産んだという知らせが入った。


大喜びのアンドレは、何をどうとち狂ったのか、僕たちの子どもが女の子だったら将来結婚させよう、とか言い出した。


僕がアンドレをさっさと屋敷から叩き出したのは言うまでもない。


しばらく奴を立ち入り禁止にした僕は心が狭い訳ではないと思う。



ちなみに、エウセビアの出産後の経過は良好。オーガスタスと名付けられた赤ちゃんもすくすくと育っている、らしい。




そして、ジョルジオの婚約が発表された。


なんとお相手の令嬢は大公殿下の二番目のご息女。しかもあちらから熱烈な秋波が送られての婚約だそうだ。


なんでも、まだジョルジオがデュフレス公爵家を継ぐ事になる前、騎士として護衛の任務中だったジョルジオがその令嬢を悪漢から守った事があったらしい。


その勇姿に惚れ込んだ令嬢がジョルジオとの婚姻を望んだけれど、当時の彼は公爵家の息子とはいえ庶子、しかも騎士爵しか持たない身で。


当然ながら、大公殿下に首を横に振られて終わりだったとか。


しかし、その令嬢はその後もジョルジオの事が忘れられず、来る縁談をことごとく断り続けていたらしい。


父親である大公殿下が無理矢理にお見合いの場を設けても、一体どう立ち回るのか、いつも相手から断りが入るのだとか。


だったらとんでもない令嬢なのかと言うと、そうではない。とても美しく、学問好きの楚々とした美女で有名な人で。


それでも当のジョルジオは令嬢の一途な恋心を全く知らないままだったと言うから面白い。


爵位継承のあれこれが終わり、数か月前にやっとジョルジオが自分の縁談を探し始めたところ、即行で大公殿下から申し込みがあって吃驚したんだって。



「無理強いはしない。だがずっと貴殿を想っていた娘だ。一度だけでも会ってくれないか」と大公殿下が頼みこんだそうだ。


その後はもう、トントン拍子で話が進み、二人はめでたく婚約と相成りましたとさ。





さて、通信機を通しての会話から約二週間後、アデルからの手紙で妊娠についてついに知った義父は、王城に勤めに上がった帰り、アデルの様子を見に顔を出すようになった。



最初は月に一回、それが最近は二回。


夕方頃にひょっこり現れて、アデルの様子を確認して、そそくさと帰る。


今、領地からはるばる通っているせいで変な執務形態になっている義父は、一度王都に来ると一週間は城に滞在して執務をこなす事になっている。



ここに僕たちが住んでるって言うのに、城に泊まり込んでいるのだ。


そして、城から領内の別邸に戻る時にここを少しの時間だけ訪れ、アデルの様子を確認して行く。


これにはルシオン王太子殿下も、もちろんキャスティン王太子妃殿下も呆れているけど、今は僕の頼みもあって静観してくれている。



だって、妊娠を知るまではここに一切寄り付かなかったのだから、今はこれで良しとしよう。



義父の胸元のポケットには、今もあのスケッチ画が忍ばせてあるらしい。


きっと無意識だと思うけど、義父はアデラインを見る時、いつも自分の手をそのポケットに当てている。


それはきっと彼にとってのお守り。


もうそれを見なくても、アデルの顔をちゃんと見られるようになっていることに、まだ気がついていない義父にとって、それは安定剤の様なものなのだろう。




安定期に入ったアデラインは、それまであまり取ることが出来なかった栄養を取り返すかの如く食欲が旺盛になった。



お腹の子は時々ぽこん、と動く。

いや、蹴ってるって言うのかな。


僕も手を添えてお腹に向かって話しかけたりするけれど、残念ながらまだその瞬間には立ち会えていない。



屋敷内の空気はずっと浮かれっぱなしで、使用人たちは大喜びで子ども用の部屋の準備をしている。


壁紙を新調し、床にはコルクマットを敷き詰め、可愛らしいベッドや小物棚、玩具などを嬉々として運び込んで。


それから、おくるみやおむつ、涎かけなどの当座必要になるものも用意した。


男の子か女の子かまだ分からないから、色は無難に黄色や緑色。


生まれた後で、また違う色を選ぶんだって。



そうこうしているうちに、アデラインが産月に入った。



僕は相変わらず王城務めで昼間はいないことが多いけれど、アデルに出産の兆しがあれば、即行で帰る許可をレクシオ殿下からもらっている。


義父のいる別邸にも、ショーンを通して知らせが行くようになってるし、子供部屋の準備もバッチリ。


あとはお腹の赤ちゃんが、無事に産まれてくるのを待つだけだ。




そして、ある日。


レクシオ殿下が勉強の合間に奥の中庭に出た時のこと。


そこに第二王子殿下と第一王女殿下までもが乱入され、何故か全力で遊ぶはめになった僕たちのもとに、侍従が急いだ様子でやって来た。


ぽかんとする僕たちに侍従は告げる。



「ノッガー侯爵家より使者がありました 」



皆の視線が僕に向く。



「お子さまがお生まれになるそうです」

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