贈り物選びの功労者



「こちらをお持ちしました。どうぞご覧ください、セシリアンさま」



そう言って、サシャは自信満々に用意した品を広げてみせた。



だが目の前の顧客は、意外だとばかりに目を丸くする。



「ええと、これ?」



そんな失礼な言葉を呟きながら。



テーブルの上に広げられたのは、最高品質のトリブト鉱石を使った剣。


それも長剣と短剣のセットだ。


更に言うならば、鞘に施した彫刻も半端なく凝っている。



これは相当お高い。


いや、問題なのは値段じゃないけど。


だって、この選択は明らかに。



「・・・何かの間違いじゃ?」


「大真面目の本気です。お祝いに贈ったら絶対に喜ばれます。自信あります」



サシャは胸を張ってそう言うけれど、僕はそう簡単に頷くことが出来ない。



もう一回言うけど、最高品質の剣だよ?


しかもセット。しかも鞘からして凝りまくりと来たら。



不思議に思うのは当然でしょ。



何故これをアンドレに?


はっきり言って、宝の持ち腐れとかにならない?・・・って、疑問に思っても仕方ないと思うんだけど。




そんな僕の反応に、不思議そうに首を傾げたのが、この贈り物を勧めてきたサシャだ。



もちろん、ふざけてはいない。完全に仕事モードだ。



だから、余計に意図が分からなかった。



サシャが口を開く。



「だって、アンドレさまは剣がとてもお強くていらっしゃいますから、ぴったりの贈り物かと思ったんですが」



・・・は?



この返答に、僕は目を剥いた。


今、何て言った?


剣がお強い? それ誰の話?



「あれ? セシリアンさまはご存知なかったんですか? 騎士を目指すお義兄さまと幼少の時から訓練を欠かさず行っておられたので、アンドレさまは相当な腕前でいらっしゃるのですよ?」


「はい?」



初耳なんですけど。



「加えて剣の収集もしていらっしゃるので、趣味と実益を兼ねた最適の贈り物になるかと」


「・・・へえ」



知らなかった。


友人のつもりでいたのに、そんなこと何にも。



「よく、知ってるね」



素直に、感嘆の言葉が口から出た。



「ヤンセン商会は、お客さまのご要望に完璧に応えるために、日々情報収集を怠りませんので」



サシャは、そう言って胸を張る。


ビジネスモードだと、本当に優秀だよな、そう感心した僕は、ここでようやく頷いた。



「じゃあ、これにしよう。メッセージも付けたいから、後でカードも用意してくれるかな」


「承知しました」



サシャはぺこりと頭を下げると、今度はアデラインに向かって品を取り出す。



「アデラインさまは、エウセビアさまへの贈り物でしたよね。こちらはいかがですか」



ことり、と音を立ててテーブルに置かれたのは、美しい細工のガラス瓶。



「・・・これは?」


「香水です」



へえ。


こっちは随分と無難な品だな。



「こちらの香水は、アンドレさまとエウセビアさまの初デートで、アンドレさまがプレゼントなさった白薔薇『雪の女王』を使って、エウセビアさまをイメージして作らせたものです」


「まあ・・・」



アデラインは両手で頬を覆い、うっとりとした声を出した。



前言撤回。


何それ。どういうこと?

どうして初デートの事まで知ってるの。


しかもプレゼントした花の種類まで把握済みとか。


ていうか、『作らせた』ってなんだよ。


こうなるのを見越して開発してたの?



色々とツッコミどころ満載で頭がぐるぐるしていた僕を後目に、アデラインは香水の瓶へと手を伸ばした。



そして、そっと小瓶の蓋を外して香りを確かめる。



「いい香り・・・主張しすぎないのに、でも印象にはしっかり残るわ。品があるし、何よりエウセビアさまの凛としたお姿にぴったりですわね」


「お二人のご結婚祝いによろしいかと」


「本当ね。エウセビアさまへの贈り物はこれにしたいですわ」


「かしこまりました。すぐに手配いたします」




再びぺこりと頭を下げる。



確かに、アンドレへの贈り物も、エウセビアの物も、完璧と言っていい程の品だ。


本当に、商人としては他を探す気が起きないくらい優秀なんだよな。



アレ・・さえなければ。



「良かったです。ご満足いただけて。セシリアンさま、アデラインさま。今後ともヤンセン商会をよろしくお願いします」


「ああ、ありがとう。サシャ嬢に頼んでおいて正解だった」


「サシャさま。いつもありがとうございます」



僕たちの言葉に、サシャの瞳がぱあっと輝く。



そして、仕事用のキリリとした顔があっという間に緩んで、へにゃりとした笑みが浮かんだ。



「・・・では」



あ、アレが来る。



「ではどうか、良くやったと褒めて下さい。そして出来ることならば頭を撫でて下さいませっ!」



・・・ああ。



お決まりのパターンへと突入し、僕はひっそりと溜息を吐く。



これさえなければ、完璧なんだけどな。ホント。


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