青天の霹靂
ここのところ、ずっと義父とアデラインとの問題ばかり考えていたから。
だから、こんな知らせが来ることを予想もしてなかったんだ。
いや、別に忘れていたわけじゃないよ?
だって、ほら。
アンドレは(一応)僕の大切な友人だしね。
エウセビアだって、ずっとアデラインの助けになってくれていた。
だからさ、全然、喜んでないとかじゃないんだ。
ただ、ビックリしただけ。
あと、ちょっと・・・そう、ちょっと悔しいだけ。
だって。だってさ。
アンドレたちが婚約したのって、ものすごく最近なんだよ?
10歳のときから婚約してた僕たちとは年季が違うんだ。
婚約して、たったの三か月なんだよ。
なのに。
どうして。
どうして、こんなものが届くんだよ。
僕は自分の掌の上にある招待状を、八つ当たりと自覚しつつ、睨みつけた。
何の招待状かって?
もうお分かりだろう。
そう、
・・・くそ。
もう一度、言わせてほしい。
くそ。
くそ、くそ、くそぅ。
式の日取りは今から四か月後。
これもまた、僕をひどく悔しがらせる。
なんで・・・なんで、アンドレの方が僕らより半年も早く結婚できるんだよ。
これは、きっとエウセビアの功績に違いない。
いや、もしかしたらジョルジオの手腕によるものかも。
だけど、絶対。
絶対、アンドレは何もしてない筈。
してない筈、なのに。
僕は、手の中にある招待状を、握りつぶさないよう気をつけるだけで精一杯だ。
・・・くそぅ。
あいつ、絶対に周囲の人に恵まれすぎ。
一体、前世でどれだけ徳を積んだ設定になってるんだ。
ああ、もう。
ここは素直に喜ぶべきところなのに。
頭では分かってるのに。
式までまだあと十か月以上ある僕にしてみれば、どうしても笑顔がヒクついてしまう。
「・・・はぁ・・・」
じっと招待状を見つめた。
いいなぁ。
羨ましいなぁ。
僕も早くアデラインと結婚したいなぁ。
あまりの衝撃に、昨日一昨日と義父の件で感じていた達成感が、どこかに吹っ飛んでしまった。
そして、後からやって来るのは、自責の念。
・・・僕って、心が狭い。
いくら羨ましいからって、なんだよ。
そう思って、溜息を2度、3度と吐いたその時、部屋の扉をノックする音がした。
「セス?」
顔を出したのは、僕の天使アデライン。
手に持っていたのは、エウセビアから送られたのであろう招待状だ。そう、例の。
だけど、僕と違ってアデルは満面の笑みを浮かべている。
「ねぇ、セスにも届いたのでしょう? お二人の結婚式の招待状」
「・・・うん」
アデルは、とてもとても嬉しそうだ。
「贈り物は何がいいかしら。一緒に考えてくれる?」
「・・・」
ああ。
こんな時、僕は自分の不出来を思い知る。
そして、アデラインをとても眩しく感じるのだ。
「セス?」
首を傾げるアデラインに、ハッと自分が考え込んでいたことに気づく。
そして、慌てて取り繕うのだ。
にっこりと笑って。
「もちろん、いいよ」
当たり前のように、そう答えて。
だって。
アデラインにつり合う男じゃないって思われてしまったら、僕はその場で灰と化す自信がある。
だから、見栄だと分かっていても、張らずにはいられないんだ。
アデライン、君だけは。
君のことだけは、手放す訳にはいかないから。
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