初めては譲らない
放っておく訳にもいかないから、取りあえずアンドレを客人としてもてなすことにした。
本人は嫌がったけど、デュフレス公爵家にもその旨の使いを出しておく。
捜索と称してこの家に来られても、拗れた仕方で対面させるしかないからね。
それに、いきなり引き渡せと迫られるような事態も防げるだろう。
そんなこんなで客室にアンドレを通し少し休ませてから今夜は3人での夕食だ。
3人でテーブルに着く光景は滅多にない・・・というか、あれ?
義父と僕たちが3人で夕食のテーブルに着いた事なんてあったっけか?
朝食は・・・たまにある。うん、本当にたまに。
義父の登城時間の関係で、どうしても同じ時間に朝食を取らないといけない場合とか。
それも暫く続くと、自室で食べるようにしてたみたいだけどね。
だけど夕食は、う~ん。
思い出せるのは、随分と前に一回・・・いや、もっと遡れば二回あったかな?
あまりにレアすぎて記憶も薄れかけているくらいだ。
朝食と比べて夕食は時間をかけて食べるから、義父がいると無言のプレッシャーが半端ないんだよね。
僕はまあ気にしないからいいんだけど、アデラインがさ、萎縮しちゃって可哀想なんだよなぁ。
もちろん食べている時は基本、話はしないけど、新しい料理が出て来る時とかでさえ、何の会話もないとね、流石にさ。
その点、不思議だ。
食事中の会話がないのは同じなのに、静かな食事風景が別に嫌でも苦痛でもなくて。
ああ、僕たちはすっかりこいつが側にいることに慣れたんだな。
そう思うと、何だかくすぐったい感じがした。
アンドレもパーティとかお茶会以外でここにいる事は初めてだから、どうやら新鮮だったみたい。なかなかに機嫌が良かった。
でも、滞在が3日ほど経った後、ぽつりとこんな言葉を漏らした。
「セスから話を聞いてはいたが、ノッガー侯爵は本当に食事などの団欒の場に顔を出さないのだな」
「・・・まあね」
そう。
義息子の友人が客人として滞在していても、義父は通常運転のままなのだ。
夜遅くに仕事から帰ってきたとき、報告には行ったけど、そうかの一言で終わりだった。
「お前が養子に来る前は、アデライン嬢はここで一人で食べていたのか」
僕とアンドレのやり取りを見守りながら、アデラインは苦笑した。
「お前が増えて、食卓を一人囲む寂しさは少し癒やされた訳だ」
「まあそうなるかな」
「確か、こういうのを餌付けと言うのだったか?」
・・・少しはまともな会話が出来るようになったかと思えば。
「そんな顔をするな。冗談だ」
ははは、と笑いやがるから、呆れ半分で睨みつける。
アデライン。こんな奴に愛想笑いをする必要はないぞ。
「義兄上は真面目だからな。このような下らん会話など出来ないのだ。全部まともに取られてしまうからな」
僕の動きがぴたりと止まる。
「義兄上はいつも私に遠慮するのだ。何があっても常に私を優先する」
「アンドレ」
「義兄弟なのに、喧嘩ひとつした事がないのだ」
「・・・」
「私が何か仕掛けても、義兄がずっと我慢するから私が一方的にやっつけるばかりで喧嘩にならない」
「おい」
「私が7、8歳になるまでの頃の話だ。もう時効だろう」
そう言って、ワイングラスに口をつける様子は、なんだか寂しそうだった。
「だから」
グラスを置くと、アンドレは言葉を継いだ。
「今回が初めての喧嘩なのだ。絶対に負ける訳にはいかない」
「・・・」
いつもの事だけどさ。
アンドレ、お前、どこか論点がズレてやしないかい?
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