一挙両得
「・・・つまりエウセビア嬢も婚約者を決めろとせっつかれて困っている、と」
「そうなんですの。わたくしもアデラインさまと同じく侯爵家の一人娘ですので入婿になって下さる殿方を探さないといけないのですけれど、もう少し自由でいたいと思っているのです」
エウセビアは、優雅にお茶を飲みながら物憂げにそう口にした。
「アデラインさまとセシリアンさまの様に、相思相愛の仲になれるお方を見つけるのが理想なのですが」
「げふっ」
僕はお茶を飲もうとして思い切り咽せた。
「そ、そんな、相思相愛などと・・・」
咳き込む僕の横で、アデラインは恥ずかしそうに俯く。
その姿に、僕の胸がちくりと痛む。
ああ、そうだよね。
まだ僕は、君の気持ちを確かめられていない。
げふげふと格好悪く咳き込みなら、少しばかり悲しくなる。
僕のアデラインは、なかなか僕の色に染まってはくれない。
「おいセス、大丈夫か? 普段あんなにイチャイチャしている癖に、何故今の言葉で照れるのだ?」
これは照れじゃないぞ。
それに普段だって別にイチャイチャしてない。
僕はしたいけど、まだアデラインはそこまで僕のことを好きになってないから、イチャイチャ出来ない。
アンドレの奴め。何気に僕に自覚させるなよ。
お前はな、悪気がないから余計にタチが悪いんだぞ。
「わ、わたくしたちの事は結構ですから、その、エウセビアさまのお話を、ね?」
「そうそう。僕たちのことはいいから、ね?」
「む、そうか。では話を戻すが、エウセビア嬢。それで何故、私と恋仲などという噂を立てる必要があるのだ?」
「勿論、時間稼ぎですわ」
「時間稼ぎ?」
ええ、とエウセビアはにっこり微笑んだ。
曰く、エウセビアもアンドレも、家を継ぐ立場にある。
となると必然、二人が恋仲にあるという噂が立ったとて、婚約へと話が進むことはない。
しかもランデル侯爵家とデュフレス公爵家は、親同士が仲が良い。
であれば、エウセビアとアンドレの仲を無理矢理に引き裂くような真似はしないだろう。
つまり、安全かつ確実に、婚約者を見つけるまでの時間稼ぎが出来る、と、こういう訳だ。
「・・・なるほど」
アンドレは、目から鱗という顔だ。
「もともと、わたくしたち二人は、一緒に行動する事が多かったですからね。そのような話になっても、誰も疑わないかと」
「なるほど、なるほど。確かに」
「二、三年は引き延ばせると思いますわ」
「おお、そんなにか」
しきりに頷きながら感心している様だ。
しかし、それでいいのか、アンドレ。
変に意地っ張りで捻くれたところがあるくせに、根が素直ですぐに丸めこまれるんだよね。
こいつが公爵家当主になるなんて、本当に大丈夫なのかと心配になる。
悪い奴にころっと騙されそうで怖いんだよ。
よほどしっかりしたお嫁さんをもらってもらわないと。
それはまあ置いとこう。
僕はアンドレの父親ではない。
エウセビアの提案は、なるほど時間稼ぎにはもってこいかもしれない。
確かにどちらも後継ぎ同士。
噂になったとしても、現実に結婚には進まないだろう。
見ればアンドレはすっかりその気になってるし。
エウセビアも満足げに頷いている。
でも、何だろうな。
何か気になる。
僕はちらりと隣にいるアデラインへと視線を送る。
すると、アデラインも僕に視線を向けていた。
君も、そう思う?
ええ、思うわ。
僕たちはアイコンタクトで語り合う。
だよね。大丈夫かな。
そうね。心配だわ。
でも、僕たちでは・・・
その時、僕たちの眼前にスッと影が落ちた。
見上げれば、久しぶりに見るアンドレの般若のようなキツい顔。
「全く・・・お前たちは、さっきから何を熱く見つめ合っているのだ。イチャイチャするのもいい加減にしろ!」
そう言って雷を落とされた。
その後ろでは、エウセビアが楽しそうに笑っている。
僕たちは別にイチャイチャしてないのに。
ここで怒られるとか、解せぬ。
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