サシャ・ヤンセンのキレイな思い出



私はサシャ・ヤンセン。


父が去年、陛下から男爵位を賜ったから、私もれっきとした男爵令嬢だ。



私には好きな人がいる。


小さい頃、三件隣に住んでいたダルトン伯爵家の三番目の男の子。



セシリアン・ダルトン。



伯爵家だけあって、けっこう大きな家と広い庭があって。


でも、庭は草とかでぼうぼうだった。



後で父に聞いたところによると、あの頃のダルトン伯爵家はお金に困っていたから、屋敷とか庭とかの手入れはあまり出来ていなかったらしい。


そんな事情は知らなかったけど、子どもにとってはろくに手入れのされていない庭はすごく魅力的で。



草をかき分け、冒険家気分で走り回るのが楽しくて。


門番がいないのを良いことに、勝手に入り込んでは遊んでいた。



ダルトン伯爵夫妻が、子ども相手に怒るような人たちじゃなくて助かった。


知ってて見逃してくれてたと思うんだ。



ある日、小さな私にでも登れそうな小さな木を見つけた。


早速よじ登ったのは良いけれど、今度は降りられなくなっちゃって、べそべそ泣いてたら、茂みの向こうから声がした。



「君はだれ? 何でここにいるの?」



ガサガサと草をかき分けて現れたのは、綺麗な金髪の男の子。


鳶色の目をまん丸にして、私を見上げていた。



降りられなくなったと伝えると、父親を呼んでくると言われ、慌てた私は枝から落っこちた。



「・・・っ!」



強い衝撃を覚悟したけど、実際に感じたのは思っていたよりも緩いもので。



「・・・?」



恐る恐る目を開けてみれば、さっきの男の子が私の下敷きになっていた。



「痛・・・っ」

「ご、ごめん・・・っ」



慌てて謝った。



怪我をさせちゃったかな。


心配になって覗き込む。


ものすごく整った顔が間近に見える。



思わず見惚れていると、その子は「どいてくれる?」と言ってきて。



慌てて上から降りた。



「あ、の、助けてくれてありがとう」


「・・・助けた訳じゃないけど。まあいいや、怪我はしてないね?」


「・・・うん!」



なんて素敵、そう感動した。


身を張って守ってくれた上に、怪我の心配までしてくれるなんて。



「なら、早く自分の家に帰って。そして、もうここに来ちゃダメだよ」


「え、なんで?」


「何でって、ここは僕の家なんだけど。君には君の家があるだろ?」



もう勝手に入ってこないでね、と言われ、外に出されてしまった。



助けてくれたのに、変なの。



後から考えたけど、照れてたのかもしれない。


また遊びに行ってみよう。



あんな風にさりげなく助けてくれて、でも恩着せがましくなくて。


素敵な顔で、伯爵家の子どもで。



まるで絵本の中の王子さまみたい。



そう思ったら、ウキウキしてきた。



それから、ダルトン家に何度も遊びに行くようになったの。


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