僕が選んで、君が選んで
「これなんてどう? アデルに似合うと思うんだけど」
僕は繊細な細工が施された銀の髪飾りをアデラインに差し出した。
生家に遊びに行った帰り、僕たちは街中の服飾品を扱う店に立ち寄っていた。
何か合うものがあるかと聞かれて選んだのが、さっきの髪飾りだ。
アデラインの顔が綻ぶ。
「とっても素敵ね」
僕が選んだものを躊躇なく選び、レジのカウンターへと早足で向かうアデラインは今日も可愛い。
というか、自分で買っちゃうのか。
プレゼントしたかったのに。
こういう時、アデラインは決して僕に払わせようとしない。
割り当てられたお小遣いがあるのだから、とおねだりなどは絶対にしてくれないのだ。
勿論、祝い事とかの贈り物は喜んで受け取ってくれるけど、普段はいつも、自分のものは自分で、というスタンスだ。
しっかりしてて立派だと思うし、誰彼構わず物をねだるのは確かにみっともない事だし、そもそも他の男に何かをねだる姿なんて見たくもないから良いとは思うんだけど。
そう、良いんだけどさ。
僕にはちょっとくらい甘えてくれても、なんて思ってしまうのは、自惚れなんだろうな。
だから今は、サプライズのプレゼントで我慢しよう。
そう思って、もう一つ。
僕はそっと手を伸ばした。
アデラインによく似合いそうだと思って見ていたブローチ。
髪飾りとこれとどっちが良いかなと、迷ってたものだ。
細かな彫りが施された銀細工の台座に、カットされた大きな黒曜石が嵌め込まれたもの。
アデラインの髪と眼の色だ。
あ、でも。
手に取って少し考えて。
僕は店員のところへ行った。
注文を終えてから、レジの横にいるアデラインのところに向かった。
髪飾りを入れた包みは・・・もうバッグにしまったのかな、見当たらないや。
僕の選んだものを気に入ってくれたのか、にこにこと嬉しそうだ。
「セス」
アデラインがくるりと回った。
「ほら、見て。とても気に入ったから、このまま付けさせてもらったの」
どう? と問いかけながら微笑む姿は、まるで天使のようだ。
僕が選んだ髪飾りを付けたアデラインが、嬉しそうに微笑む。
別に初めての事でもないのに、何故か顔が熱くなって、思わず俯いてしまった。
アデラインの笑顔が眩しくて。
口元が緩む。
いかん、どうにもニヤけてしまう。
「セス?」
「なんでもない。・・・とても、似合ってるよ、アデル」
「ふふ、ありがとう」
そう言って笑うアデラインの背中に、天使の羽が見えた・・・気がした。
今度は僕も、アデラインに何か選んでもらおうかな。
男物だと品が限られるけど。
でも、僕のためにアデラインが選んでくれたものを、僕も身につけたい。
お互いに相手を思って選んだものを身につけるのは、とても恋人っぽいと思うから。
・・・いや、先走るな。
まだ恋人じゃないだろ。
アデラインにとって、今の僕は義弟以上、恋人未満。
今はまだ、それでいいと思ってる。
やっと義弟以上にはなれたんだから。
少しずつ、少しずつ、アデラインは僕を意識してくれている。
このまま、ゆっくりと距離を縮めていくんだ。
・・・だから。
変な邪魔が入ったりしたら、嫌だな。
つい一時間前の、生家での会話を思い出しながら、僕はそんなことを考えていた。
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