第244話 爆発しそう
サンドホエールは、その名の通りクジラの魔物だった。
その大きさはこの魔導飛空艇にも匹敵し、普段は砂の中に潜って棲息しているという。
性格は非常に好戦的で、しかも異常なほど食欲旺盛らしい。
同族すらも積極的な捕食対象にするほどで、それゆえこの広大な砂漠でも個体数はごく少数。
滅多に遭遇することがないものの、襲われたら確実に食い殺されてしまうことから、絶望の象徴として恐れられているとか。
ちなみにその鼻から噴き出される息が、砂混じりの竜巻になるようだ。
「こんなときに遭遇するなんて……っ! 砂漠の神は我らを見捨てたのか!?」
エレオーネが天を仰いで叫ぶ。
他の面々も一様に自分たちの不運を嘆いている。
「でも、砂の中にいる魔物でしょ? こっちは空を飛んでるんだし、そんなに恐れる必要はないと思うけど?」
冷静に指摘したのはアンジェだ。
だがエレオーネは首を振って、
「やつの恐ろしさは侮ってはならない! 本気を出せば、この高度まで……」
と、そのときだった。
竜巻の根元の砂が大きく盛り上がったかと思うと、そこから勢いよく巨体が飛び出してきた。
体表は砂漠の砂と同じ色をしているが、見た目は確かにクジラそのものだ。
しかし海のクジラがせいぜい海面から数メートルほどしか飛び上がらないのに対し、この砂のクジラはまるで空中を泳いでいるかのような勢いでぐんぐん高度を伸ばしていく。
「こ、こっちに向かってきています!?」
「もうお終いだああああああああああっ!」
どうやら自分の作り出した砂の竜巻を利用し、跳躍力を増しているらしい。
「へえ、こんな魔物も棲息してたんだね」
「暢気に感心している場合ではないぞ!?」
エレオーネに咎められるも、俺が余裕なのには訳があった。
『魔力砲を発射します』
直後、迫りくるサンドホエール目がけ、強力な魔力砲が発射された。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
轟音が鳴り響き、飛空艇が揺れた。
巨体が地上へと落ちていく。
「な、な、なんだ、今のは!?」
「魔力砲だよ。このセノグランデ号には近づいてきた敵を撃退するため、いくつかの攻撃機能が搭載されてるんだ」
「空を飛べて、しかもサンドホエールを撃ち落とすほどの攻撃が可能だと……? 戦争の概念を覆すような兵器ではないか……」
唖然としているエレオーネ。
一方、地上に落下したサンドホエールは、魔力砲を喰らった部分が体内の臓器に届くほど深々と抉れており、もはや瀕死状態だった。
「あ、爆発しそう」
その身体が急激に膨張していったかと思うと、次の瞬間には爆発し、血や肉や臓物を周囲に巻き散らした。
「最後あんな死に方するんだ……」
「……やつの肉や臓器は他の魔物にとって大好物らしく、これから大量に集まってくるだろう。死んでもなお厄介な魔物なんだ」
少し血が飛空艇にかかってしまったので、自動洗浄モードにして奇麗にしておく。
「ともあれ、これで目的のオアシスに降りれるね」
魔導飛空艇をオアシスの小さな湖の上に滞空させると、地上は大慌てだった。
昇降機能を使って地上に降りると、女性兵士たちが武器を構えて警戒していた。
「私だ」
「「「エレオーネ様!?」」」
エレオーネの姿を確認し、目を丸くする兵士たち。
「ああっ、ご無事だったのですねっ!」
「なかなか姿を見せられず、心配していたのです!」
「ですが、あの巨大浮遊物は一体……? それに先ほど、サンドホエールを返り討ちにしたように見えたのですが……」
「驚かせて済まない。色々と事情があって、空に浮かぶあの船でこの場所まで連れてきてもらったんだ」
このオアシスに集結していたのはせいぜい二十人ほどだった。
予想していたよりも数が少なかったらしく、エレオーネは少し沈鬱の表情を浮かべつつ、
「やはりそう多くは集うことができなかったか……。いや、むしろよく生き残ってくれたというべきかもしれない。かくいう私も、彼らに助けてもらわなければ、砂賊どもに捕まっていただろう。……っと、詳しいことは中で話すとしよう。随分と疲弊しているようだしな」
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本作のノベル版第5巻が、5月15日(水)に発売されました!(https://www.earthstar.jp/book/d_book/9784803019476.html)
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