第243話 シェフっぽいのはいるよ

 すっかり汗や汚れが落ちてきれいになったエレオーネ一行は、大浴場の湯加減を絶賛してくれた。


「素晴らしい湯だった。果たして何日ぶりのことか……。最初に貴殿らを見たとき、砂漠にあってやけに清潔なことに驚かされたが、まさかその理由が空飛ぶ船の大浴場だったとは、想像すらできなかった」


 どうやらゆっくり浸かることができたようだ。


「食事の準備もできてるよ」

「食事まで!?」


 魔導飛空艇には、これも前世の俺が作った自動調理機が存在している。

 食材を放り込み、後は食べたいものを指定するだけだ。


「ビュッフェ形式だよ。好きなものを適当に皿に取り分けて食べてね」

「サラダに前菜、スープ、肉料理に魚料理、それにパスタやパン、デザートまで……っ!? これだけの料理を準備するのは大変だっただろう!? というか、この短時間で作ったのか? もしかしてこの船にはシェフも乗っているのか……?」

「シェフっぽいのはいるよ。人じゃないけど」

「人じゃないシェフ!?」

「まぁ、細かいことはいいから早く食べて食べて。しっかり栄養を取るのも今のお姉ちゃんたちの大事な任務だよ」

「そうか……ではまたお言葉に甘えて」


 やや遠慮がちに頷くエレオーネだったが、よっぽどお腹が空いていたのだろう、一巡目から皿に山のように料理を乗せた。

 仲間たちもそれに続く。


「「「う、うまああああああああああああああいっ!?」」」

「団の食堂よりもずっと美味しいぞ!?」

「何なら王宮の料理よりも美味しいかもしれない……っ!」


 味にも満足してくれたみたいだ。

 それからエレオーネたちは遠慮することなく料理を食べまくった。


 かなりの量を用意したはずなのに、あっという間に料理を乗せていた大皿が空になっていく。


「追加はまだまだあるから、どんどん食べてね」

「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 大歓声が上がる。

 これはまだたくさん食べそうだ。


 やがて満腹になった彼女たちに、俺は少し仮眠を取るように勧めた。


「適当に個室のベッドを使っていいから」


 お風呂に入ってお腹も満たされた彼女たちは、疲労もあって相当な眠気に襲われていたのだろう。

 もはや遠慮することもなく、各々個室に消えていった。





「お陰ですっかり身体が癒えた。何から何まで本当にすまない」

「気にしなくていいよ。それより、それらしいオアシスが見えてきたけど」

「なっ!? もう到着したのか!? 本来なら数日はかかる距離だというのに……」


 魔導飛空艇が到着したのは、とある小さなオアシスだった。


「あそこに兵たちの姿があるはずだ。……無事に辿り着いていればの話だが」


 いずれ国を取り戻すための戦力が必要だと考えたエレオーネは、自身が王宮から脱出するとともに、王国軍の兵士たちに逃走の命令を出していたという。

 そうしてもし無事であれば、指定したオアシスに集まるよう伝えていたそうだ。


「見た感じ、それらしき人影があるね」


 そのとき警報音が鳴り響いた。


『右方に危険なストームが確認されました。こちらに向かって接近してきています』


 艇内そんなアナウンスを流れてくる。


「ストームって、あれのことか」


 それは猛烈な砂を纏った竜巻だった。

 この飛空艇に猛スピードで近づいてきている。


「こ、このままだとぶつかってしまう……っ!」

「大丈夫だよ、エレオーネお姉ちゃん。この飛空艇はあのくらいの竜巻にやられるほど脆弱じゃないよ。ちょっと揺れるとは思うけど」

「そうではない! あれはただの竜巻ではないんだ!」

「え?」


 血相を変えたエレオーネが訴えてくる。


「あの竜巻の原因は、砂の中に潜む凶悪な魔物っ! この砂漠の生態系の頂点に立ち、旅人たちから最も恐れられている魔物っ……サンドホエールだっ!」


 直後、竜巻の根元の砂が大きく膨れ上がったかと思うと、そこからこの飛空艇に匹敵するサイズの巨体が飛び出してきた。

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