第242話 ジジイが何か言ってますね

 巨大な一つの集団と化した砂賊たちが、エンバラに攻め込んできたという。

 エンバラ側も懸命に交戦したが、砂賊の勢いに押され、ついには王宮すらも制圧されてしまった。


 その寸前で女王は王宮から逃走。

 だが追っ手に追われ続け、ついに追い詰められたのが先ほどのことだったという。


「無論このまま逃げ続けるつもりはない! 必ずや奴らを打倒し、国を取り戻す! ……ただ、その間、民たちにどれほど過酷な日々を送らせることか……っ」


 悔しそうに奥歯を噛み締めるエレオーネ。

 欲情した男たちが彼女たちにしようとしていたことを考えると、人々がどのような目に遭うのか想像は難くない。


「しかもエンバラは女ばかりの国……すべての民が、奴らの餌食に……」


 え、今なんて?

 もしかしたら聞き間違いかもしれないと思い、俺は訊き返す。


「女ばかりの国って言った?」

「ああ、その通りだ。我がエンバラ国は、初代の方針を忠実に守り、女しか国民になることができない。街の中心部はすべて男子禁制区域だ」

「よし、力を貸そう!」


 俺は力強く叫んだ。


「あんな野蛮な男たちに支配されたら、どれだけ多くの女性たちが非道な真似をされることか! それを無視することなんて、僕にはできない! お姉ちゃんたちも協力してくれるよね!?」

『マスター、本音は?』

『女性ばかりの国でキャッキャウフフの体験をいっぱいした~~~~い!!』

『……』


 リントヴルムが汚物を見るような視線を向けてくる。


「ん、もちろん」

「腕が鳴るわね」

「我が主の願いとあらば当然」


 女性陣もやる気満々だ。


『マスターと違って正義感ですね』

『でもほら、やらない偽善よりやる偽善っていうだろう?』


「気持ちは嬉しいが、敵は強大だ。確かに貴殿らのような強者が協力してくれるというなら、この上ないほど心強いが……すでに先ほど我々の危機を救ってもらっている。さすがにこれ以上のことは……」


 俺たちの申し出に、困惑した様子のエレオーネ。


「遠慮しなくていいよ。僕たち武者修行中の身でもあるからさ。むしろちょうどいい訓練になると思う。まぁこっちが勝手に首を突っ込むんだから、万一やられたとしても気にする必要はないよ」

「ん、師匠の言う通り」


 エレオーネは感動したように目を潤ませ、


「……ありがとう。正直、我々だけでは簡単ではないと思っていた。貴殿らの力があれば、あるいは……ところで先ほどからずっと気になっているのだが……」



「なぜ赤子が喋っているんだあああああああっ!?」







「ほ、本当に空を飛んでいる!? こんな乗り物があるなんて……っ!」


 エレオーネ一行を魔導飛空艇に案内した。

 この砂漠を移動するのに、どう考えてもこれの方が速いからな。今は一刻を争うし。


「しかもなんと快適な室温なのか」

「お風呂もあるから、入ってきてもいいよ。汗掻いてるでしょ?」

「そんなものまで!?」


 大浴場を案内してあげると、砂漠の砂と汗に塗れた彼女たちは大いに喜んだ。


「だが、今このときも民たちが苦しんでいる。こんなときに湯船に浸かって寛ぐなど……」

「むしろこんなときだからこそでしょ? 今はしっかり身体を休めて、体力を回復させるべきだと思うよ。どのみち移動中にやれることなんてないんだからさ」

「そうか……確かに貴殿の言う通りだ。ではお言葉に甘えて、入らせてもらうとしよう」


 俺の訴えに、納得してくれるエレオーネ。


「うんうん、それがいいと思うよ! じゃあ、詳しい使い方を教えてあげるね! まずはこの脱衣所で服を脱いで……あれ?」

「ここから先はあたしに任せておきなさい!」


 実地で案内してあげようとしたら、なぜかアンジェに捕まって浴場から放り出されてしまった。


「酷い! 0歳児なら混浴しても許されるはずなのに!」

『中身100歳越えのジジイが何か言ってますね』


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