第239話 反省はしておりません
「いてててて……確かに服を着てなかった俺も悪いけど、なにも殴らなくても……」
「……失礼いたしました。つい……。反省はしておりません」
「してないの!?」
目を覚ましたメルテラにぶん殴られてしまった。
もし俺が死にかけのジジイだったら、きっと死んでいただろう。
『前世は実際それで死にましたからね。学習されない変態ですね、マスターは』
「魔王と戦うのに必死で、服のことなんて完全に失念してたんだ。最近、全裸でいることも少なくなかったしな。なにせ赤ちゃんだから」
俺はすでに元の赤子の姿に戻っていた。
時間切れである。
「それで、どういたしましょうか、大賢者様?」
「この都市の元凶だったデオプラストスは取り除いてやったし、後は禁忌指定物を回収するだけだな」
『簡単におっしゃってますが、塔内は敵だらけですし、なかなか骨が折れそうですよ?』
とそこへ、先ほどの老人たちが恐る恐る戻ってきた。
静かになったので、戦いが終わったと思ったのだろう。
「だ、大賢者様のお姿がない……?」
「まさか、あの赤子にやられたというのかっ!?」
「そんなはずはなかろう! 神にも等しい力を持つお方なのじゃぞっ?」
狼狽えている彼らを余所に、俺はメルテラに訊く。
「あの爺さんたちはどうする? このままだと彼らがこの都市の支配者になるよな?」
「彼らも腐敗した印象しかございませんし、放置するべきではないでしょう」
「そうなると、誰がこの都市を治めるかって話になるし……っと、そうだ」
俺はメルテラに提案した。
「この都市、君が代わりに支配しちゃえばいいんじゃない?」
「はい?」
その後、魔法都市エンデルゼンは大混乱に陥った。
公的にはトップに君臨している五賢老が、謎の集団によって捕えられてしまったのだから当然だろう。
「ん、また攻撃してきた」
「何度でも返り討ちにしてやるわ!」
「半分は我に任せるがよい」
ファナやアンジェたちも合流して、塔の最上層で立て籠もる俺たち。
魔法騎士団が何度か救出作戦を決行してきたが、その度に撃退してやった。
「ですが、いつまで続けるのでございますか?」
「大丈夫。もう終わったから。ほら」
この状況を完全に覆すために、俺は五賢老たちにあることを施していたのだ。
「大賢者メルテラ様、万歳!」
「「「大賢者メルテラ様、万歳~~っ!」」」
「大賢者メルテラ様……むにゃむにゃ」
そう、洗脳である。
……それにしても約一名、ずっと寝ているんだが。
「ちょっ、どういうことでございますか!?」
「うんうん、やっぱりデオプラストスなんかより、メルテラの方が大賢者に相応しいな。今はまだ赤子の姿だが、そのうち成長すれば威厳も出てくるだろう。なにせハイエルフだし」
「そういう問題ではございません!」
本人は喚いているが、彼女ほど適任はいないだろう。
幸い五賢老以外、デオプラストスの姿を見た者はいなかったようなので、トップがいつの間にかすげ変わっても誰にも分からないようだ。
「大賢者というなら、あなたこそ適任でございましょう」
「俺はいいよ。もう前世で十分だ。せっかく生まれ変わったんだから、今世は冒険者として気ままに世界を旅して生きていくよ」
五賢老を洗脳したことで、都市の改革は瞬く間に進んだ。
禁忌指定の実験や研究などが中止になり、作り出された魔導具やアイテムはすべて回収。
さらに地下居住区が閉鎖されて、魔人たちは黒の魔石を取り除くことで元の人間に戻ったし、魔導巨兵の操縦者として育成されていた子供たちも無事に解放された。
まだまだ問題点は多々あるが、メルテラならきっとこの魔法都市を生まれ変わらせることができるだろう。
「というわけで、頑張ってね~」
「まったく……仕方ありませんね……若返りの目的を果たした今、他にやることもございませんし……」
諦めたように息を吐くメルテラと別れ、俺は魔法都市を後にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます