第238話 完全な変態になりました
「――一時発育急進魔法」
それは己の寿命を犠牲にすることで、自分の肉体を一気に成長させるという魔法だ。
開発した当時、老境に差し掛かっていた俺が使わなかったのは当然だろう。
残り少ない寿命を差し出すにはいかなかったこともあるが、そもそもすでに成長の伸びしろなどなかったからだ。
これは幼い身体に使うからこそ意味がある。
もちろん一時的に成長させるだけなので、後で元に戻ってしまうのだが。
短かった手足がどんどん伸びて、太くなっていく。
肩幅も広くなり、全身を男らしい筋肉が覆う。
着ていた服はすぐに小さくなって、破けてしまった。
お陰で股間が露わになったので、それもまたしっかりと大人の男のサイズに成長したのが分かった。
「どうだ、リントヴルム? カッコいい大人の男になっただろう?」
『そうですね、完全な変態になりました』
鏡を作り出し、成長した自分の顔を見る。
これは新しい身体なので、当然ながら前世とは顔も違う。
「ほう、なかなかの男前だな」
鏡に映っていたのは、二十歳前後の青年だった。
赤子の頃とはだいぶ顔つきが変わっているが、どちらかというとやはり母親似だろう。
変わったのは外見だけではない。
「ふんっ!」
魔力を軽く噴出させると、周囲に暴風が吹き荒れた。
「いいぞ。この魔力量、前世の頃の全盛期に匹敵する。それに……」
とそこへ、ドラゴン化したバハムートが突っ込んでくる。
『マスターあああああああああっ!? なぜか大きくなってるうううううっ!? そして素敵な裸あああああああああああああああああんっ!!』
「よっと」
『っ!?』
軽い横っ飛びでそれを回避。
バハムートはそのまま背後の壁に激突してしまった。
「瞬発力も申し分ない。肉体的にも完璧だな」
「な、何だ、その姿は……っ?」
「行くぞ、魔王アルザゼイル」
「~~~~っ!?」
縮地で懐に飛び込むと、袈裟懸けの斬撃をお見舞いする。
赤子の貧弱な腕力とは比べ物にならない強烈な一撃で、魔王の肉を深々と斬り割いた。
無論それだけでは終わらない。
瞬時に身体を回転させ、間髪入れない二撃目が魔王の胴を抉った。
「まだまだっ!」
「があああああああああああああああっ!?」
剣神仕込みの連撃が、魔王に反撃の隙すらも許さない。
魔王の肉片が飛び、鮮血が舞い、悲鳴が轟く中、俺はさらに魔法を発動した。
「光矢万射」
光の矢が無数に出現し、それが次々と魔王の背中に突き刺さる。
斬撃と魔法の矢で、ちょうど前後から魔王を挟み込むような形となった。
もはや魔王には逃げ場などない。
「ぐおおおおおおおおああああああああっ!?」
自慢の超再生能力を凌駕するダメージで、魔王の肉体が破壊されていく。
「ば、馬鹿なっ……この力っ……かつての貴様を、超えているだと……っ!?」
「当然だろう。お前を倒したときなんて、まだまだ若造の頃だったからな」
今のこの俺は、一生かけて身に着けた経験や技量と、全盛期の体力の両方を兼ね備えているのだ。
「ああああああああああああああああああああああっ……」
やがて魔王の肉体の大部分が消し飛び、復活の元凶となった心臓部が露出する。
俺はそれを強引に掴み取ると、改めて封印を施した。
「……ふう。どうにか倒せたな」
大きく息を吐く。
勇者がいない今回、どうなることかと思ったが、無事に討伐できてよかった。
魔王の心臓はひとまず亜空間の中に放り込んでおく。
こんなことが起こらないよう、今度こそ完全に消滅させる方法を見つけ出さないとな。
『せっかく転生されたというのに寿命が縮まってしまいましたね』
「ふっふっふ、その心配は要らないよ、リンリン」
『……どういうことですか?』
「メルテラが若返りに成功していただろう? その方法を教えてもらえれば、もはや俺は永遠に生きることができるということだ。っと、そのメルテラは無事かっ!?」
魔王討伐の余韻に浸っていた俺は、そこでようやくメルテラのことを思い出し、慌てて彼女の元へと走る。
「よかった。まだ息はあるようだな」
すぐに回復魔法をかけてやると、気絶していたメルテラが目を覚ました。
「ん……ま、魔王は!?」
「安心しろ。魔王なら俺が倒したぞ」
「大賢者様……よかっ――」
そこでようやく俺が赤子から青年へ成長していることに気づいたようで、メルテラの切れ長の目が大きく見開かれる。
ふふふ、どうやらイケメン過ぎて驚いているようだな。
『いいえ、マスター。変態すぎて驚いているだけです』
え?
次の瞬間、メルテラが叫んだ。
「わたしに近づくなっ、この全裸野郎があああああああああああああっ!」
「ぶごっ!?」
メルテラの拳が俺の下顎に突き刺さる。
……服を着てないの忘れてたぜ。
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