第226話 測定不能だと
飛行船を少し離れた場所で降りて、俺たちは魔法都市へと向かった。
荒野を横断するように舗装された道路が走っていて、そこを何人も歩いている。
「彼らも都市に向かってる?」
「あの都市への移住が大変人気のようなのです。しかもその大半は、魔法使いではない人たちでございます」
「何でまた?」
「市民の住む場所と食べ物を、都市が保証すると喧伝しているからでございます。魔法によって、食料の大量生産が可能になったと謳っているようです」
作物の成長を促す魔法は、かつての大賢者の塔でも使っていたものだ。
しかしあくまで通常よりも生育するというだけである。
都市の周辺は荒野で、農地があるわけでもないし、大勢の市民を受け入れられるほどの作物を確保できるとは思えないのだが……。
「そもそもあの街に何の用があるのよ?」
アンジェが怪訝そうに聞いてくる。
「新しい冒険の拠点?」
と、ファナ。
「そうでございますね……どう説明すればいいものか……」
メルテラが悩ましげに呟きながら、ちらりと俺の方を見てきた。
俺は首を左右に振る。
ここで前世の話を出されては困るので、俺は代わりに説明した。
「ざっくり言っちゃうとね、お姉ちゃんたち。あそこに悪の拠点があるんだ」
「「悪の拠点?」」
メルテラが呆れたように念話を飛ばしてくる。
『……大賢者様、さすがにざっくりし過ぎでございます。それで納得してくれるとは――』
「ん、悪いやつは倒さないと」
「そうね! ギルドの依頼じゃなかったとしても、放っておくわけにはいかないわ!」
『――納得されてる……』
二人とも脳筋だから。
「今回、アルセラル帝国の帝都で起こった事件も、その悪いやつらの仕業なんだって、お姉ちゃん。この間の海のこともそうだし、他にもエルフの里を滅ぼそうとしたり、やりたい放題してるみたい」
「ん、許せない」
「そんなに危険な連中なのね!」
そうこうしている間に城門へとやってくる。
怪しまれては困るので、俺はファナに、メルテラはアンジェに抱えてもらって、ただの赤子のふりをすることに。
「ん、移住希望」
「娘が三人に赤子が二人……不思議な一団だな?」
出入りを管理している役人らしき男が、怪訝そうに俺たちを見てくる。
「……まぁいい。そこのゲートを潜れ」
「ゲート?」
そこにあったのは、魔力を発する怪しい扉だ。
どうやら魔導具らしく、この都市に移住するためには、この扉を通過しなければならないらしい。
『これを潜ると、生体情報や魔力情報がスキャンされてしまうとのこと。同様のものが街中の各所に設置されており、常に管理された状態に置かれてしまうそうでございます』
『居場所もすぐにバレてしまうってことだな』
もしこれで情報を奪われてしまったら、街中を自由に動きづらくなるだろう。
『さらにこのスキャンは選別の一つでもございます。魔法の才能の有無に応じて、あからさまに居住区のグレードが変わるようなのです。特に高い才能を持つと判断された場合は、あの中央の塔で魔法の研究に従事することもできるようになるそうです。逆にまったく才能無しと判定されてしまうと……』
『どうなるんだ?』
『……詳しいことは、中に入ってからご説明いたしましょう』
俺とメルテラは自分たちの情報を隠蔽する。
抱えてくれているファナとアンジェについても、上手く誤魔化せたはずだった。
「四人そろってB判定か。最後の一人は……」
Bというのは、あの塔に入ることは許されないが、そこそこ良い居住区に住めるレベルらしい。
と、そこで俺はハッとしてしまう。
「あ、リルを忘れてた……」
最後に一人でゲートを通り抜けたリルだけ、隠蔽ができなかったのだ。
今は獣人の美女の姿をしているが、その正体は伝説の魔物フェンリルである。
一番情報をスキャンされたら困るのが彼女だった。
「っ!? 何だ、この魔力は……っ? 今まで見たことないぞっ? そ、測定不能だと!?」
あ~あ、やってしまった。
――――――――――――――――――
コミック版『転生勇者の気まま旅』の2巻が、今月6日に発売されます。よろしくお願いいたします。https://magazine.jp.square-enix.com/top/comics/detail/9784757589889/
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます