第225話 僕はそう思わないけどね

「そうだ! この街は勇者オリオンが救った! 危ないところだったが、もう大丈夫だ!」

「ちょっ、レウス!?」


 声帯を上手く魔法でコントロールし、オリオンの声を完璧に再現して俺が叫ぶ。

 まさか赤子が物まねをしているとは思わず、オリオンの言葉だと信じた人々が大歓声を響かせた。


「な、何を言ってるんだっ? 街を救ってくれたのは君たちだろうっ!」

「そうかもしれないけど、誰もそんな期待はしてないからね。大衆が求めてるのは、あくまでも勇者だから」


 俺は今回の活躍を勇者オリオンに押し付けるつもりだった。

 というか、誰も赤子が都市の危機を救ったなんて信じてはくれないだろう。


「うぅ……また勝手に持ち上げられて……ぼくには勇者なんて、相応しくないのに……」


 嘆くオリオンに、俺は言う。


「僕はそう思わないけどね」

「え?」

「正直、お兄ちゃんには勇者の才能があると思う」


 あの勇者リオンも、元から強かったわけではない。


 彼は正義の男だった。

 人々を救いたい、その思いで必死に努力し、そうして魔族と戦うことができるまでに成長したのだ。


 大事なのはその精神だろう。

 今回オリオンは危険を顧みず、この国を救うためにダンジョンへの同行を自ら志願した。


 その姿は、勇者リオンと重なるものがあった。


「お兄ちゃんは勇者リオンとよく似ているよ。見た目もそうだけど、特にその勇敢な心がね」

「まるで勇者リオンを知っているかのような口ぶりだけれど……君は一体……」

「ただの赤ちゃんだけど?」

「どう考えても無理があるよ……」


 その後、オリオンが予想した通り、武闘大会は中止となった。

 あのまま試合が続いていたら、恐らく五連覇を逃すことになっていただろうし、彼からすればむしろよかったのかもしれない。


「それで、実行犯を捕まえたというのは本当?」

「はい」


 メルテラが頷く。


「一応、僕の方も見つけたんだけどね……自爆されちゃってさ」

「そういうこともあろうかと、わたくしの方は最初に丸ごと凍らせたのでございます。爆発を誘因するものが何か分かりませんが、大抵はそれで防げるはずですので」

「なるほど、さすがだ」

「その後、何人かは解除に失敗して爆発してしまいましたが……どうにか口を割らせることに成功しました」

「それで、何を聞き出すことができたんだ?」







 アルセラル帝国を出発した俺たちは、飛空船で大陸を一気に北上していた。

 メルテラの案内で、かつて大賢者の塔から禁忌指定物を盗んだ犯人の居場所へと向かっているのだ。


「見えて参りました」

「あれは……都市?」


 彼女が指さす先にあったのは、荒野のど真ん中に作られた巨大な都市だった。


「はい。魔法都市エンデルゼン。恐らく現在のこの世界で、最も魔法文明が発達した都市でしょう。わたしが突き止めたところによると、実行犯たちはこの都市の人間たちで、上からの命令に従って各地で禁忌指定物の事件を起こしていたようでございます」


 都市の中心には天高く聳え立つ塔が立っていた。

 それは前世で俺が作った大賢者の塔とよく似ている。


「似ているっていうか、もはやそのものだね」

「ええ。間違いなくモデルにしたのだと思われます。そしてあの塔は、まさに大賢者の塔と同様、現代の優秀な魔法使いたちが集い、日夜、魔法の研究に励んでいる場所のようでございます」


 都市の周囲には結界が張られていた。

 魔法都市と言われているだけあって、なかなか強固なものだ。


「こっそりすり抜けるのは難しそうだね」

「はい、探知される危険性は高いです。大人しく城門から入ることにいたしましょう。実はわたしが懇意にしている新聞社の記者が、潜入取材のため移民の一行に交じって中に入ったことがあるそうで、幸い出入りはそれほど厳しくないとのことでした」


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