第224話 さあ勇気を出して飛び込んでみよう

「大丈夫。ファナお姉ちゃんとアンジェお姉ちゃんもこれを受けて魔力回路が整ったお陰で強くなったんだからううんズルとかじゃないよむしろ世界中の人が受けるべき治療だと思うしそういう時代がもうすぐ来るはずだからリオネお姉ちゃんは今すぐ受けるといいよ大丈夫痛みとかはないし受けたら世界が変わるしきっと勇者に相応しい強さを身に着けることができるというか強くなりたいのなら受けない選択肢はないでしょ勇気だよ勇気ここで勇気を見せないでいつ見せるのそんなことじゃ勇者になれないよ大丈夫お姉ちゃんは自分のことを勇者の生まれ変わりじゃないと思ってるかもしれないけどもしかしたらその双子のお兄ちゃんじゃなくてお姉ちゃんの方こそが勇者の生まれ変わりだったかもしれないじゃない実際今こうして勇者装備を身に着けているのはお姉ちゃんなんだしさあ勇気を出して飛び込んでみよう」


 そんな俺の懸命な説得によって、リオネは施術を受けることになった。


「な、なんで裸のままなんだ……っ!?」

「裸の方がやり易いからだよ。元から裸だったんだしちょうどいいでしょ」


 大浴場の脱衣所だ。

 そこに設置されているマッサージ用の台の上に寝転んだリオネの裸体を、俺はじっくりと


「ふむふむ、こことこことあとこの辺が特に混線しちゃってるね。じゃあ、始めるよ」


 俺は魔力を集中させた指先で、リオネの白い肌に触れた。


「んんっ!?」

「ほら、動かないで」

「あっ……ま、待ってっ……ほ、本当に、こんなことでんあっ……」

「もっと力を抜いて。その方が治療しやすいからね。さあ、今からちょっと敏感なところにいくよ」

「ん~~~~っ!?」


 そうしてじっくりとリオネの裸体を堪能、じゃなかった、魔力回路の修復を行うこと三十分ほど。

 もうとっくに船は帝都の上空に辿り着いているはずだが、もちろん治療の方が優先だ。


「はぁ、はぁ、はぁ……うぅ……ぼくもう、お嫁に行けないかも……元から行けないだろうけど……」


 先ほどお風呂に入ったばかりだというのに、またびっしょりを汗を掻いて、リオネは施術台の上でぐったりとしていた。


「うん、上手くいったよ。元々普通の人よりも回路が綺麗ではあったけど、それでもこれで今までよりもっと魔法が使いやすくなったはずだよ」

「だといいんだけど……」


 操舵室に戻ると、アンジェとファナが待っていた。

 リオネは再び勇者装備に身を包み、オリオンとなっている。


「遅かったわね。もう到着してるわよ?」

「都市の出入りが可能になってる。魔物も見当たらない」

「ダンジョン化からちゃんと解放されたみたいだね」


 ダンジョンコアを操作するのは久しぶりだったのだが、どうやら間違えずにできたみたいだ。

 あちこちに氷の要塞が建っているのはメルテラの仕業だろう。


「まだ街の中は混乱しているみたいだけど、そのうち落ち着いてくると思う。……さすがに武闘大会は再開できそうにないだろうけど。なんにしても、君たちのお陰だ。君たちがいなかったかと思うと、どうなっていたことか……。国を代表してお礼をしたい。本当にありがとう」

「う、うん」

「……?」


 言えない。

 元々は前世の俺が生み出した禁忌指定物のせいで、こんなことになってしまったなんて。


 飛行船から降りて、ひとまず闘技場に着陸する。

 リングのあった場所には氷の要塞が建っていて、観客の多くはその中に避難していたようだ。


「あっ、勇者様だ!」

「本当だ! 勇者様だ! ご無事だったのだな!」

「当然だろう! なにせ勇者様なのだ!」


 オリオンの姿に気づいた人たちが口々に声を上げる。


「もしかして勇者様が何とかしてくださったんじゃないか!?」

「そうだ! きっとそうに違いない!」

「さすがは勇者様!」


 そんな声にオリオンが戸惑う。


「い、いや、ぼくは……」

「そうだ! この街は勇者オリオンが救った! 危ないところだったが、もう大丈夫だ!」

「ちょっ、レウス!?」


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