第223話 そんなお姉ちゃんに朗報だよ
勇者オリオンは女性だった。
それも素晴らしい巨乳の持ち主である。
邪魔な勇者の鎧で隠されていたそれが、この大浴場で露わになっていた。
『勇者の鎧を邪魔扱い……処刑されますよ? いえ、むしろ処刑されてください』
リントヴルムが冷め切った空気で何か言ってるが、今の俺の頭の中には「混浴」の二文字しかない。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん! 僕は赤ちゃんだから! 恥ずかしがらなくたっていいし、何なら隠さなくても! ぐへへへ……」
「み、見た目は確かに赤ちゃんだけどっ……」
胸を押さえたまま俺から距離を取るオリオン。
「いやっ、そんなことより……っ! ぼくが本当は女だっていうこと、絶対に秘密にしておいてくれないかっ!?」
切実な顔で訴えてくる。
「うーん、どうしよっかなー? だって、一緒にお風呂入るの嫌がってるしなぁ……赤ちゃんとして、ちょっと悲しいっていうか……泣いちゃうっていうか……」
『鬼畜ですか、マスター?』
オリオンが慌てる。
「わ、分かったよっ! 一緒に入るからっ! だから絶対に黙っておいてほしい……っ!」
「ほんと? わーい、じゃあ、お姉ちゃん抱っこしてーっ!」
「ひっ!」
ひっ、って。
こんな可愛い赤子なのになぁ……。
『どこがですか』
仕方ないので抱っこは諦め、オリオンのすぐ隣にぷかぷかと浮く。
「それで、どうして男のフリをしていたの?」
「そ、それは……」
詳しい事情を聞いてみると、どうやら事の発端は彼女が生まれる前、この国のとある著名な預言者による預言にまで遡るようだった。
「伝説の勇者リオンの生まれ変わりが、帝国の王家に誕生する。そんな預言だったんだ。ちょうどその直後に、ぼくが生まれた。ただ、本当はぼくには双子の兄がいたんだ」
オリオンの双子の兄。
当然ながら勇者の生まれ変わりに違いないと持て囃され、帝国中で祝福された。
「けれど、そんな兄を悲劇が襲った。まだ七歳の頃だった」
流行り病に罹り、そのまま呆気なく亡くなってしまったのだという。
「勇者の生まれ変わりが病気で死んだ。そんなことを世間に公表したら、帝国の、そして勇者の血を引くとされる王家の権威が失墜しかねない。そこで双子の妹で、兄と瓜二つだったぼくに白羽の矢が立ったんだ」
オリオンという名は、死んだ兄の名前だった。
彼女の本当の名前はリオネ。
だがその日から、リオネという名前を捨て、オリオンとして生きることになったのである。
「でも、どんなに必死に頑張っても、ぼくは兄じゃない……勇者の生まれ変わりでもない……なのに父上は、勇者の力を知らしめようと、勇者祭で武闘大会なんてものを始めてしまうし……。最初はまだ規模が小さくて、勇者装備があれば優勝も簡単だった。けれど、段々と実力のある出場者が増えてきて……」
人々の前では勇者として振舞いながら、誰にも言えなかった胸中の苦しみを吐露するオリオン、いや、リオネ。
「うんうん、お姉ちゃん、大変だったんだね……」
「……頷きながらずっとぼくの胸を凝視してるよね?」
「赤ちゃんだからね。おっぱいには目がないんだ。食欲的な意味で」
「君のはそういう感じに見えないんだけど……邪念を感じるというか……」
『彼女の言う通り、卑猥な性欲です』
せいよくってなに?
ぼくよくわかんない。
「それどころじゃなくなってしまったけれど、今回の大会、あのまま進めていたらぼくは確実に負けていたと思う……」
「そうだね。ファナお姉ちゃんには勝てたとしても、ゴリティーアお兄ちゃんには勝てないと思うよ」
「あの黒い渦の破壊も失敗してしまったし、ダンジョンに潜ってからもずっと足手まといだった……ははは……本当に、ぼくが勇者だなんて、笑っちゃうよ……」
自虐的に嗤うリオネ。
そんな彼女に、俺はある提案をした。
「そんなお姉ちゃんに朗報だよ! 実はね、手っ取り早く潜在能力を引き出すことができる特別な施術があるんだけれど……よかったら受けてみない?(ニヤリ)」
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