第222話 手のひらを返し過ぎでは

「うーん、失敗しちゃったね」


 俺は頭を掻いていた。

 足元にはダンジョンコアのところにいた連中が、完全に息絶えて転がっている。


『どうやら完全な捨て駒だったようですね』

『そうだな。まさかいきなり心臓が爆発して死ぬとは思わなかった。あらかじめ仕込まれていたんだろう。酷いことをするな』


 ファナがこの連中を無力化させた直後に爆発音が響き、バタバタと倒れていったのである。


「この連中は一体何者だったんだ……?」

「ともあれ、ダンジョンコアの操作は終わったから、無事に街は解放されたはずだよ。そして地上にも実行犯がいるはず」


 メルテラが上手くやっていれば捕まえてくれているだろう。

 そっちも自爆している可能性はあるが……。


「じゃあ地上に戻ろう」


 ダンジョンボスを倒すと、地上までの直通ルートが出現する。

 俺たちはそこを通って、地上へと脱出した。


 ダンジョンを出た先は、オリオンが言っていた火山の中腹だった。


「帰りはこれに乗っていくよ」


 亜空間の中から飛行船を取り出す。


「な、何だ、これは!?」

「空を飛ぶ船だよ。これに乗っていけば、帝都まで三十分くらいで着くと思うよ」

「空を飛ぶ船……? 伝説の乗り物じゃないか……き、君は本当に何者なんだ……?」

「ただの可愛い赤ちゃんだよ?」


 困惑しているオリオンを促し、飛行船に乗り込む。


「なっ……本当に空を飛んでいる!?」

「お兄ちゃん、疲れたでしょ? 廊下に行けば個室があるから、そこで休んできたらいいよ」

「あたしはシャワーで汗を流したいわ! 耐熱魔法があっても熱かったし、かなり汗かいちゃったもの!」

「ん、同じく」


 シャワーを浴びにいくアンジェとファナ。


「シャワーだって……? そんなものまであるのか……」

「うん。お兄ちゃんもどう?」

「そ、そうだな……確かに、随分と汗を掻いてしまったが……あの試合からずっと動きっぱなしだったし……」

「あ、ちょっとにおうかもー?」

「えっ……ぼ、ぼくも浴びてくることにするよ!」

「せっかくだし、大浴場を使ってみてよ」

「大浴場?」

「うん。こっちだよ」


 俺は右舷の三階にある大浴場へオリオンを案内した。


「ここだよ」

「船の中にこんなお風呂がっ!?」

「お姉ちゃんたちは個室のシャワーを使ってるし、お兄ちゃんの貸し切りだから、好きに使ってくれていいよ」

「ほ、本当にいいのかい? じゃあ、お言葉に甘えて……」


 オリオンを残し、俺は大浴場を後にする。

 と、見せかけて。


『マスター? なぜ脱衣所を出たところで立ち止まっておられるのですか?』


 そのまま三分ほど経っただろうか。


「……今だ!」


 俺は再び大浴場へ。


『マスター、何をされるつもりで?』


 リントヴルムを無視し、脱衣所で衣服を脱ぎ捨てて生まれたままの姿になると、オリオンのいる浴室へと勢いよく飛び込んだ!


「お兄ちゃんっ、やっぱり僕も一緒に入るううううううう!」

「~~~~~~っ!?」


 湯船に浸かっていたオリオンが、俺の乱入に驚く。

 慌ててその白い腕で隠した二つの双丘が、隠し切れずに腕の隙間からむにゅりとはみ出す。


「あれれ~? お兄ちゃん、お胸に何かついてる~? もしかして、お兄ちゃんじゃなくって、お姉ちゃんだったの~っ?」

「きっ……きゃあああああああああああっ!」


 オリオンの口から甲高い悲鳴が轟いた。


『……なるほど。なぜマスターが男性の同行を許したのだろうと思っていたのですが……こういうことだったのですね……よく女性だと気づきましたね?』

『くっくっく、鎧で隠した程度で、俺があの巨乳を見逃すとでも思ったか?』

『さいですか』


 彼、いや、彼女の胸の二つの膨らみは、アンジェやリルに勝るとも劣らない。

 むしろ初見で見抜けなかったのが不思議なくらいである。勇者リオンが間違いなく男だったから、それに惑わされたというのもあるかもしれない。


『負けろとか言ってごめんね? 僕は勇者のお姉ちゃんを応援するよ!』

『手のひらを返し過ぎでは』


―――――――――――――

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https://magazine.jp.square-enix.com/top/comics/detail/9784757589322/

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