第221話 やっと尻尾を捕らえることができました
城壁の上で街を見下ろしながら、その集団のリーダーは信じられないとばかりに呻いた。
「フェニックスが、破れただと……? あれだけの黒い魔石を喰わせた、神話級の魔物が……しかも、それをやったのがフェンリル……まさか、この街の誰かが使役しているとでもいうのか……?」
彼の想定外だったのは、それだけではない。
彼らが総力を挙げて作り出した五つもの巨大な〝魔の渦旋〟が、いとも簡単に消滅させられてしまったのだ。
武闘大会のために街に強者が集まっている状況だったため、一つ二つは破壊される可能性も想定していたが、あれほどの短時間で五つすべてが消滅するなど、どう考えてもあり得ないことだった。
「加えて、この都市そのものをダンジョンに呑み込ませた。逃げる場所もなくなり、これで確実にこの都市は壊滅し、誰一人として生き残ることは不可能……の、はずだったというのに……っ!」
それどころか、街のあちこちに出現した氷の要塞に人々が避難したせいで、ほとんど被害が出ていないような状況である。
そしてこれを打破するための起死回生の策として投入したのが、あのフェニックスだったのだ。
「だ、だが、この都市がダンジョンに呑み込まれた状態なのは変わりがない。このまま街の出入りができなければ、いずれ食糧が尽きて餓死するはず……」
もちろんそれでは想定より遥かに時間がかかってしまう。
数年前から準備を進め、ついに実行に移した一大プロジェクトが、こんな事態に陥ってしまったことを、果たして上にどう報告するのかと、考えるだけで背筋が凍りつく。
しかも、万一……本当に万に一つの可能性ではあるが、都市のダンジョン化すらも解消されてしまったとしたら……。
「伝説の勇者の生まれ変わりとされる、この国の皇子……。どう考えても、あの〝魔の渦旋〟を破壊したのはその勇者の生まれ変わりだ……。もしダンジョン化にも気づいて、それを解消しようと考えたとしたら……い、いや、さすがにそんなはずは……」
と、そのときだった。
出入りができなくなっていた城門の一つから、人が街の外に脱出していくのが見えた。
「ば、馬鹿な!?」
さらに魔物がまったく湧き出してこなくなり、もはや街のダンジョン化が失われたとしか考えられない。
「こんなに短期間で、あのダンジョンが攻略されたというのか!?」
愕然として叫ぶ。
「ようやく見つけましたよ」
「っ!?」
突然、背後から聞こえてきた声に振り返る。
するとそこにいたのは、
「あ、赤子っ!?」
生後半年かそこらの赤子が地面に立ち、こちらを見上げていたのだ。
赤子とは思えないくらい目鼻立ちがはっきりしており、耳の先端が尖っている。
もしかしたらエルフかもしれない、というところまで男は推測できたが、さすがにその正体が何百年も生きているハイエルフだとは思いもよらないだろう。
「な、なぜここに赤子がっ……いや、仲間たちはどこに……」
「あなたのお仲間たちなら、そこで氷漬けになっていますよ」
「っ!?」
そこでようやく気づく。
エルフの背後に幾つもの氷柱が出現しており、よく見るとその奥には彼の仲間たちが捕らえられていた。
「まさか、街中の氷の要塞は……っ!」
「ええ、わたくしの魔法で作ったものでございますよ。それより、やっと尻尾を捕らえることができました。今までは後手を踏んでばかりで、なかなか実行犯を見つけられませんでしたからね」
「っ……最近、各地の実験が悉く何者かに潰されていると聞いていたっ……それは貴様の仕業だったというのかっ!? くそっ……」
「逃がしはしませんよ」
踵を返して走り出した男の身体が、一瞬にして凍り付いていく。
彼はそのまま氷柱の中へと閉じ込められてしまった。
「さて、それでは詳しいことを聞き出すといたしますか」
この連中は恐らくただの実行犯だろうと、メルテラは考えていた。
彼らの背後に、大賢者の塔の禁忌指定物を盗み出した人物がいるはずだった。
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