第220話 なんて威圧感なのぉっ

 空を悠然と舞いながら、炎の雨を降らせ続けるフェニックス。

 フェンリルはそれを躱しつつ反撃の隙を伺っているが、その雨が激し過ぎて、なかなかチャンスがない。


「ワオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 そのときフェンリルが響かせた大咆哮。

 氷の要塞の中でその余波を浴びただけで、気の弱い人間たちがバタバタと倒れていく。


「なんて威圧感なのぉっ……さすがは神話級の魔物ねぇ」

「っ……ご覧ください、フェニックスが」


 指向性の咆哮を浴びたフェニックスが、真っ逆さまに地上へと落下してくる。

 そのまま未知のど真ん中の地面へと叩きつけられた。


「グルアアアッ!!」


 炎の鳥を地上へ引きずり下ろし、絶好のチャンスを迎えたフェンリルが、猛スピードで躍りかかった。

 辛うじて意識を取り戻したフェニックスだったが、もはや空へと逃げる時間はない。


 鋭い爪で、フェニックスの身体をズタズタに引き裂いていくフェンリル。

 周囲に火の粉が飛び散り、それが石造りの道路や建物を焼いた。


 しかし不死身と言われるフェニックスだ。

 炎がその傷口を覆い尽くすと、あっという間に元の姿へと戻ってしまう。


「あれじゃ、いつまで経っても倒せないわん……っ! それに攻撃を加えているはずのフェンリルちゃんも、身体が焼けてきちゃってるじゃなぁい……っ!」


 一方的に相手にダメージを与えているように見えたフェンリルだが、フェニックスの炎を浴びてしまっていた。

 美しい白銀の毛が黒く焦げていく。


「クエエエエエエエッ!!」


 無駄だと言わんばかりにフェニックスが鳴いた。


「ワオオオオオオオオオオオオオンッ!(無駄? 笑わせる。貴様ごときの炎が、我に効くとでも思うか?)」


 だがフェンリルは構うことなくフェニックスを攻め立てる。

 その喉首に噛みついて、思い切り引き千切った。


 放り投げられた頭部が消失し、代わりに新たな頭部が生えてくる。


「やっぱりフェニックスを倒す方法はないみたいだわぁ」

「いえ……そうでもなさそうです」

「?」

「ご覧ください、フェニックスの身体が最初よりも随分と小さくなってきています」

「あら、本当だわぁん!」


 当初はフェンリルに匹敵するサイズを誇っていたフェニックスだが、今やその半分、いや、それよりも小さくなってしまっていた。

 さらに傷の修復も遅くなってきている。


「炎も、弱まってるわぁん……」

「そうですね……さらにどんどん小さく……」


 ついにそこらの鳥程度の大きさになってしまったフェニックスを、フェンリルはそのまま丸呑みにしてしまった。


「……ゲフッ(マズい鳥だ)」


 小さくゲップしたフェンリルの身体が再び小さくなっていった。

 そして元の獣人美女に戻ってしまう。


 メルテラは慌てて彼女のところに駆け寄って、


「倒したのでございますか?」

「うむ、見ての通りだ」

「相手は神話級のフェニックス……まさかこんなに簡単に……」


 驚くメルテラに、フェンリルが首を振った。


「いや、やつはフェニックスなどではない。本物のフェニックスなら、この程度では倒せぬだろう」

「え? フェニックスではなかったのでございますか?」

「恐らく似たような鳥の魔物を無理やり進化させ、フェニックスモドキにしたのであろう」

「なるほど……」


 どうやら黒い魔石を使うことで、あれを生み出したようだとメルテラは納得する。


「ただ、さすがに本物の神話級の魔物にはできなかったということでございますね」


 と、そのときである。

 ずっと周囲に充満していた魔力が、不意に薄れてなくなっていくのをメルテラは感じ取った。


「解消されたようでございますね。レウス様が上手くやってくれたのでしょう」


 今はまだ魔物が徘徊しているが、これでもう新たに生まれてくることはないだろう。


「氷の要塞もありますし、後はどうにかなるでしょう。というわけで、わたくしは……」

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