第219話 我に任せるがよい
レウス一行がダンジョンの最下層を目指している頃。
ダンジョンに呑み込まれてしまった都市で、メルテラは大いに活躍していた。
「すごい魔法わねぇん。こんな巨大なシェルターを作っちゃうなんて」
「簡易的なものですから、さすがにドラゴンなどの凶悪な魔物の攻撃には耐え切れませんが、今この街にいる魔物程度であれば、十分に防げるかと思います」
そう説明するメルテラが作り出したのは、氷の要塞だった。
最大収容人数は軽く千人を超え、分厚い氷の扉が魔物の侵入を阻んでいる。
氷でできているため内部はかなり涼しいが、ちょうど夏が近い季節であるため、むしろ快適に過ごすことが可能だ。
この要塞が、都市の各所に全部で五十以上。
すでに住民の大半が避難を完了しているはずだった。
「クルアアアアアアッ!!」
そんな要塞の一つに、一体の魔物が襲いかかろうとしていた。
「ちょっ……あれは、フェニックス!? 何であんな魔物がいるのよぉん!?」
ゴリティーアが驚くのは無理もない。
フェニックスは燃え盛る巨大な鳥で、神話に登場するような魔物である。
今、彼らの頭上を悠々と飛翔するそれは、全長十メートルを超えており、かなり離れているというのに、ここまで猛烈な熱風が押し寄せてくる。
「あれは……さすがに防げませんね」
メルテラの氷の要塞など、いとも簡単に溶かされてしまうだろう。
「くっ……やるしかないわねっ!」
戦う覚悟を決めるゴリティーア。
とはいえ、空を飛行する巨大な魔物と戦うのは、それだけでかなり不利だ。
ましてや相手はフェニックスである。
「人間よ、我に任せるがよい」
「……あなたは? 確か、レウス様の……」
「うむ、訳あって、主として付き従っている」
そのとき彼女の身体に異変が起こった。
口部が前に突き出てきたかと思うと、全身が白い毛に覆われていく。
腰の辺りが盛り上がり、上体が前に倒れ、腕が地面につくような格好になると、さらに身体が巨大化していった。
「こ、これはっ……」
「ワオオオオオオオオオオオオオンッ!!」
そこに現れたのは、巨大な白銀の狼だった。
「フェンリル!?」
「ちょっ、フェニックスだけじゃなくて、フェンリルまで!? ああん、さすがにお手上げよぉん!」
リルが変身するところを見ていなかったのか、青い顔でゴリティーアが叫ぶ。
「……いえ、その心配は要りません。どうやらあのフェンリルは、我々の味方のようでございますから」
「え?」
次の瞬間、フェンリルが地面を蹴った。
凄まじい跳躍力で一気に空を舞うと、フェニックスに躍りかかる。
「クエッ!」
すぐさま方向転換し、フェンリルを躱すフェニックス。
「グルアアアッ!(無駄だ!)」
だがフェンリルが前脚を振るうと、それが真空波を生み出して離れた場所のフェニックスの翼を引き裂いた。
「クエエエッ!?」
躱したはずがダメージを受けて、フェニックスが鳴き声を響かせる。
片方の翼が傷つき、バランスを崩してふらふらとよろめいたフェニックスだったが、すぐに体勢を立て直した。
よく見るとフェンリルが与えた傷が修復している。
「ああん! 傷が治っちゃったわぁん!」
「フェニックスは何度死んでも炎の中から生き返る、不死身の魔物だと言われていますが……」
「もしそうなら、どんなに頑張っても倒せないじゃないのぉ!」
一方のフェンリルは地面に着地していた。
フェニックスの傷が癒えていくのを見ても、まるで動じる様子はない。
「クエエエッ!!」
今度はフェニックスが攻撃を仕掛ける版となった。
両の翼を大きくはためかせると、炎の矢が雨のごとく降り注ぐ。
俊敏な動きでそれを避けていくフェンリル。
だがこれだけ激しい炎の雨を降らされては、先ほどのように跳躍して近づくことはできない。
「同じ神話級の魔物といっても、空を飛んでるフェニックスの方が有利じゃないのよぉっ!」
「そうでございますね……ただ、あの様子、何かフェンリルにも策があるのかも……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます