第218話 赤ちゃんの本能ばぶー

「……どうにか倒せたな」


 さすがに疲れてため息を吐きながら、俺はファナたちのもとへと戻った。


 巨人を倒したことでゴーレムは動きを止めていた。

 あちこちにその残骸が転がっていて、一目で激闘を繰り広げたのが分かる。


「ファナお姉ちゃん、僕、疲れちゃった」

「ん、師匠。頑張った」


 ファナの胸で受け止めてもらう。

 ぐへへへ……これが一番、体力が回復するぜ。


『それよりマスター。早くダンジョンコアを探すべきでは?』

『おっと、そうだった』


 ダンジョンの制御は、ダンジョンコアと呼ばれる、ダンジョンのいわば心臓に干渉することによって行う。


「そもそもダンジョンコアって、聞いたことないんだけど?」

「そうだね。ダンジョンを攻略しても、ダンジョンコアが出てきたりはしないから」

「なら、どこにある?」


 ダンジョンコアの場所は、ダンジョンによって異なる。

 基本的にはボス部屋の近くにあるものではあるが、決して見える場所にあるわけではない。


「でも、ダンジョンコアは魔力の塊のようなものだからさ。魔力濃度の高い場所を探せば……うん、こっちの方だね」

「ん、確かに、そんな気がする」

「そうね。こっちの方が魔力が強い感じね」


 ファナとアンジェが頷いているのは、二人とも魔力の流れが分かるようになっているからだ。

 一方のオリオンは、


「魔力が濃い……? ぼくにはまったく分からないんだが……」


 魔力の濃淡にピンと来ていない様子。

 まぁ、あまり魔力を意識しなくても魔法は使えるものだしな。


「この壁の向こうみたいだね」

「壁の向こうだって? それじゃ、どうしようもないじゃないかっ!?」

「どうして?」

「だって、ダンジョンの壁は破壊できないはず……」


 そこでアンジェが前に出た。


「あたしも前はそう思ってたけど、そうじゃないのよ」

「お姉ちゃん、もしかしてチャレンジする気?」

「そうよ。今のあたしなら、何となくできるような気がするの」


 そう言って闘気を溜め始めるアンジェ。


「まさか、お姉ちゃん……」

「はあああああああっ!!」


 次の瞬間、アンジェの拳から放たれた闘気の塊が、ダンジョンの壁を直撃した。

 ドゴオオオオオオオオオオオオンッ!!


 ゴリティーアがやっていた闘気を放出する技だ。

 もうそれをモノにしてしまうなんて……。


「ふぅ……初めてだったけど、上手くいったみたいね」


 壁には穴が空いていた。

 人が一人潜り抜けられる程度の大きさではあるが、このダンジョンの硬い壁に穴を開けただけでも上等だ。


 しかもちゃんと意識を保っている。

 最初は闘気を使い過ぎて、気絶してしまう者も多いのだ。


「お姉ちゃん、成長したね。師匠として嬉しいよ」

「……そんなこと言いながら、胸に顔を埋めようとしてるのは何でかしら?」

「赤ちゃんの本能ばぶー」

「師匠なのか赤ちゃんなのか、どっちかにしなさいよ!」


 嫌だ! 俺は良いとこどりする!


「ん、あれがダンジョンコア?」

「き、綺麗……」


 穴の奥に小さな部屋があり、そこにダンジョンコアが浮かんでいた。


 自然にできたものとは思えない、美しくカットされた巨大な宝石のような物体だ。

 ダンジョンによって色合いが違うが、ここのダンジョンコアは燃え盛る炎のように赤い。


 と、そんなダンジョンコアのすぐ傍に。


「な、何だ、貴様らは!?」

「なぜここに人が!?」


 数人の怪しい人間たちがいた。

 どうやらこいつらがダンジョンコアを操作していた連中のようである。


「馬鹿な……このダンジョンを攻略し、ここまで辿り着いたというのか……? 念には念を入れて、絶対に到達できないようにしていたというのに……」


 この集団のリーダー格っぽい老齢の男が、愕然として後退る。


 今回の一件、どう考えても単独犯ではない規模だったが、やはり組織的なもののようだ。

 そもそも各地で禁忌指定物の事件が起こっている時点で、そうだろうと思ってはいたが。


「倒せばいい?」

「そうだね、ファナお姉ちゃん。ただ、後で詳しい事情を聞きたいから、殺さないようにね」

「ん、了解」

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