第217話 消耗されたのでしょう

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 炎に包まれる一つ目の巨人、マグマサイクロプス。

 その咆哮に呼応するように、周囲のマグマ溜まりから炎の柱が立ち昇る。


 どうやらこの巨人が操っているようで、それが四方八方から襲い掛かってきた。

 加えて天井から次々と降り注ぐ岩の塊。


「ん、大変」

「何なの、こいつ! めちゃくちゃでしょ!?」


 さらに落ちてきた岩の塊が動き出す。

 溶岩の塊であるそれは、どうやらゴーレムだったようだ。


「マグマゴーレム!? くっ……しかもこの数っ……」

「ボスは僕が倒すから、ゴーレムはお姉ちゃんたちに任せるよ」

「了解」

「分かったわ!」


 威勢よく応じるファナとアンジェ。

 一方、オリオンは青い顔をしている。


「お兄ちゃんは頑張って逃げてて」

「ぐっ……足手まといにしかならないなんて……」


 悔しそうにしているオリオンを余所に、俺はリントヴルムに乗って巨人へと突っ込んでいった。


「氷矢」


 氷の矢をその身体に打ち込んでやる。

 まぁ矢というか、槍ぐらいの大きさだが、しかしそれは巨人の身体に近づく前に溶けてなくなってしまった。


「思った以上の熱量みたいだな」


 氷が弱点属性だろうと思ったのだが……。

 メルテラ並みの氷魔法でなければ、むしろ無効化されてしまうようだ。


「なら……爆矢」


 巨人の胸に直撃した矢が、凄まじい爆発を起こした。

 しかし残念ながらこれもまったくの無傷である。


「あの溶岩の鎧、かなり硬いな。……っと」


 俺を叩き落とそうとしてきた剛腕を回避したかと思うと、今度は口から炎を吐き出してきた。

 それも躱して、俺はその一つ目へと急接近する。


「こういうやつは目が弱点って、相場が決まってるからな」


 剣モードにしたリントヴルムを、その唯一の目へと突き刺そうとした。

 ガキンッ!!


「っ?」


 だがその寸前に瞼が閉じられると、剣の切っ先が弾かれてしまう。


「瞼まで硬いのかよ……けど、そうやって護ったってことは、つまり弱点ってことだな」


 俺はその閉じられた瞼を狙って何度も魔法を放ち、幾度も剣で斬りつけていく。

 どんなに硬いとはいえ、壊せないものではないはずだ。


 予想通り、やがて瞼が割れて眼球が露わになる。


「ウオオオオオオオオオッ!!」

「溶岩が……」


 巨人が叫ぶと、周囲の溶岩がその頭に向かって飛んできた。

 やがて兜のように、頭部を完全に溶岩が覆ってしまう。


「マジかよ。狙われてるのを理解して、保護しやがったぞ」

『随分と賢いですね。これも黒い魔石の力でしょうか?』


 ちなみに俺が少し手間取っているうちに、ファナやアンジェはゴーレムに囲まれて結構なピンチに陥っていた。

 オリオンに至っては、もはや必死に逃げ惑うだけだ。ボス部屋の前で待っててもらった方がよかったな。


『どうされますか、マスター? 見たところ、かなり疲れている印象です。最近のマスターであれば、このレベルの魔物でも問題なく討伐できるはず。あの規模の〝魔の渦旋〟を三つ破壊し、さらにここまで休みなく潜ってこられて、消耗されたのでしょう』

「そうだな……さすがにこの赤子の身体で無理をし過ぎてしまったみたいだ」

『ご命令とあれば、わたくしがブレスであの邪魔な鎧を破壊しますが? 魔力も十分に充填されていますし、休止状態になる心配もありません』

「そうしてくれ。今は無駄な時間を使ってる暇はない」

『では』


 いったん杖モードに戻したリントヴルムの竜の意匠が、大きく口を開ける。

 その口腔に凄まじいエネルギーが集束し、そして巨人目がけて放たれた。


「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」


 頭部を覆っていた溶岩の兜が消し飛び、再びその唯一の目が外に出てくる。

 俺は全力で突っ込んでいった。


 割れた瞼でなんとか保護しようとする巨人だったが、その隙間を縫うように再び剣モードにしたリントヴルムの切っ先が眼球を貫く。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」


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