第227話 悪の拠点っぽくない
「どうするのですか? あの様子ですと、そのまま塔に連れていかれることになると思いますが」
「うーん、まぁどのみち、あの塔には乗り込むことになるんだし、先に行っておいてもらっても問題ないだろ。念のため余計なことを言わないようには言っておいたし」
破格の魔力を有することがバレてしまったリルは、すでに役人たちに連行されていってしまった。
この街では、才能の有無に応じて、待遇が大きく変わってしまうのだ。
「ではこれより、B判定の皆様を居住区にご案内させていただきま~す!」
やや甲高い声でそう告げたのは、うさぎの着ぐるみだった。
他にも同種の着ぐるみが何体かいるし、この都市のマスコットなのかもしれない。
そんな謎のうさぎに連れられ、居住区へ。
どうやらすでにこの城門から幾つかの居住区に分かれているようで、この居住区間を出入りするためには必ず許可が必要になるらしい。
しかも下位の居住区の住人が、上位の居住区に入ることは基本的に許されていないという。
B判定だった俺たちが、ちょうど真ん中のグレードの居住区のようだ。
「居住区は、あの塔を除くと、最上位の第A区からC区までの三区画あるとされているようですが……」
「……なんか含みのある言い方だな?」
そうこうしているうちに、居住区に辿り着いた。
「皆様の住居はこちらの区画にあるマンションになりま~す。一世帯あたり、一室ずつご利用くださ~い」
俺たちB判定の移住者たちに与えられたのは、集合住宅の一室だった。
中に入ってみると、三つほど部屋があって、シャワーやトイレなども完備されており、なかなか悪くない環境である。
「これがA区になると、各世帯に一軒家が与えられます。特に塔内への入場が許可されたような者には、かなりの豪邸が用意されるようです。一方、C区はここと同じく集合住宅ですが、これよりずっと狭く、トイレやシャワーなどが共用になっています」
配給される食料や衣服、医薬品なども、居住区によって大きな差があるらしい。
「随分と格差があるんだな」
「ですが、C区でも最低限の生活が保障されています。そのため各地の貧しい人々が、挙って移住を希望してきているのでございます」
もちろん住民たちには仕事が与えられる。
この都市は世界でも有数の魔道具の生産国らしく、その工場では常に多くの労働力が必要とされているのだという。
衣食住も仕事も保証されている。
それゆえC区だろうと、住民たちの多くはここでの暮らしに不満を抱いていない。
「それだけ聞くと、理想的な都市って感じがするわね?」
「悪の拠点っぽくない」
メルテラの説明を聞いて、アンジェとファナが首を傾げている。
「……ここまでは、この都市の表の顔でございますので」
どうやら何か裏があるらしい。
「塔への侵入を決行するのは夜……それまで時間もありますし、少し見に行ってみましょうか。この都市の地下に隠された四つ目の居住区――通称X区に」
俺たちはB区を出て、最下級の居住区とされているC区へとやってきた。
そのC区内には、関係者以外の立ち入りが禁止された建物が存在していた。
厳重に警備されたこの場所にこそ、地下にあるX区への入り口なのだという。
隠蔽魔法で気配や姿を消した俺たちが様子を窺っていると、ちょうどC区の住人と思われる人たちが、中に連れていかれるところに出くわす。
「見たところ普通の住民にしか見えないが」
「X区に連れて行かれるのは、犯罪者やこの都市に反抗的な者たちだけではございません。労働義務を果たせないような者も対象となっているようなのです。もちろん表向きは、更生施設や職業訓練施設に入ることになるとされているそうです」
こっそり彼らに交じって、その建物内へと侵入する。
そして長い螺旋階段を下りていくと、やがて辿り着いたのは、広大な地下空間に広がるスラムのような薄汚れた街だった。
――――――――――――
コミック版『生まれた直後に捨てられたけど、前世が大賢者だったので余裕で生きてます』の6巻、本日発売です!!
https://www.earthstar.jp/comic/d_comic/9784803018943.html
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます