第213話 遅れたら置いてっちゃうよ

「まったく、とんだ邪魔をしてくれたな。もう少しでミルク貰えそうだったんだぞ? しかも素晴らしい巨乳だったんだ」

『毎度のことながらキモ過ぎます、マスター。それにどうせ気持ち悪すぎて、くれなかったと思いますよ』


 せっかくの母乳チャンスを逃した俺に、リントヴルムは辛辣だ。


「しかし、なぜあそこに魔物がいたんだ? 俺の魔法で、渦から出てきた魔物は全滅させたはずだが……」


 首を傾げながら地上を見下ろしていると。

 それが起こったのは、家と家に囲まれた空き地のような場所だった。


 地面から何かが盛り上がってきたかと思うと、二足歩行の狼の魔物が姿を現した。


「……は?」

『魔物が……生まれてきましたね』


 俺とリントヴルムがそろって我が目を疑う。


「いや、ちょっと待て。どういうことだ? 街中に魔物が出てきた? それもまるでダンジョンで魔物が出現するような感じで……」


 そこまで言ったところで、俺はハッとする。


「待て、ダンジョンだと? まさか……。リンリン! 上空へ!」

『了解です』


 リントヴルムに命じ、一気に高度を上昇させる。

 だがある程度まで進んだところで、そこからまったく高度が上がらなくなってしまった。


『マスター、どうやら限界のようです』

「マジか。しかもリンリン、見てみろ。この街の出入り口を」


 都市の東西南北に存在する七つの門。

 突如として起こった魔物の大量発生を受けて、そこに人々が殺到しているのだが、


『開いているはずも門から、外に出ることができなくなっていますね。一体どういう現象でしょうか?』


 リントヴルムの疑問に俺は答える。


「ダンジョンだ。この都市そのものが、ダンジョンに呑み込まれてしまってるんだよ」







 恐らくこの現象には、ダンジョンに関する二つの技術が使われている。


 一つがダンジョンの制御技術。

 それはその言葉通り、ダンジョンを自分の好きなように改造したりできる技術のことだ。


 そしてもう一つが、ダンジョンの地上化技術。

 本来ダンジョンというのは、地下や建物の中などの閉鎖的な空間に存在するものだが、それを地上のような解放された空間にまで広げる技術である。


 後者は前者を前提とした技術であるので、今この都市そのものがダンジョン化しているとすれば、必然的に両方の技術が使われていることになる。


「そしてダンジョンというのは、決まった場所からしか出入りすることができない」

『だからこの都市から外に出ることができないわけですか』

「そういうことだ」


 ちなみにこのダンジョンに関する二つの技術も、禁忌指定していたものだ。

 魔の渦旋のことといい、メルテラが負っている大賢者の塔の生き残りが関わっているに違いない。


 そうこうしているうちに、俺は闘技場へと戻ってきた。

 リングの上にいるファナたちのところに降り立つ。


「レウス様」

「メルテラも戻ってたみたいだね」

「すでにご存じかと思いますが」

「うん、分かってる。渦を全部消滅させても、まだ魔物が出てくる話でしょ」


 どうやらメルテラもこの現象に気づいていたようだ。

 そしてすでにみんなに説明してくれていたらしい。話が早くて助かる。


「都市ごとダンジョンに呑み込まれるとか、意味分からないんだけど! どうするのよ!?」

「これを解消する方法は一つしかないんだ。ダンジョンの最下層まで潜り、ダンジョンコアを見つけて上書きする」


 それまでこの都市から誰一人として逃げ出すことはできない。

 まぁ一応、唯一の出入り口を通れば外に出ることも可能だけれど、たぶん一度地下に潜らないとダメだろう。


 つまり、それまでずっとこの街の人たちは危険に晒されることになる。



「時間が惜しい。僕はこれからすぐにダンジョンの下層を目指すよ」

「私も行く」

「あたしもよ!」


 ファナとアンジェが手を上げた。


「いいけど、全力で進むからね。遅れたら置いてっちゃうよ?」


 と、そこでオリオンが口を開く。


「ぼくも連れて行ってくれ……っ!」



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