第212話 ちょっと喉乾いちゃったんだ
ゴリティーアは自らの闘気を使い果たす勢いで、渦目がけて放出するつもりらしい。
「上手くいけばって……っ! そんな一か八かで、命を賭けようっていうのかっ!?」
オリオンが慌てて叫ぶ。
「それしか手がねぇんだから仕方ないだろ。そして少しでも可能性があるなら、オレはやる! 見せてやるぜ! 漢の生き様ってもんをなぁっ!」
前方に突き出したゴリティーアの両腕に、膨大な闘気が集束していく。
すでに元の大きさに戻った渦は、再び魔物を吐き出してそれを止めようとする。
「遅ぇよっ! 消し飛びやがれえええええええええええええええええっ!」
上から狙った方がより確実だと考えたのだろう、ゴリティーアは地面を蹴って数メートル以上も跳躍。
そこから闘気の砲弾を発射した。
「気功砲……っ!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
先ほどのオリオンの雷撃に匹敵、いや、それ以上の爆音が轟く。
闘気の余波だけで周囲にいた魔物が吹き飛び、咄嗟にその場で伏せたアンジェたちも飛ばされそうになってしまう。
やがて静けさが戻ってきたとき、今度こそ完全に渦が消滅していた。
「ゴリティーア!」
跳躍していたゴリティーアが地上へと落ちてくる。
地面に叩きつけられる寸前で、どうにかアンジェがキャッチした。
「重っ……って、それより、大丈夫!?」
ゴリティーアは意識を失っている。
慌てて心拍を確かめてみると、
「動いていないっ!? くっ……」
慌てて心臓マッサージをするアンジェ。
だがなかなか心拍が戻ってこない。
レウス特製のポーションも飲ませてみたが、まったく効果がなかった。
そもそも闘気を放出し切ったせいで、心臓を動かすだけの生命エネルギーが残っていないのだろう。
「それならっ……」
アンジェは咄嗟に自らの闘気を分け与えることを考えた。
そんなことが可能かどうかは分からないが、他にできることはない。
自らの闘気を慎重にゴリティーアの中に入れていく。
と、そのときである。
どくん、どくん、どくん……。
「っ! 動き出したわっ!」
闘気の分け与えが功を奏したのか、ゴリティーアの心拍が復活したのだった。
◇ ◇ ◇
「……ふう、どうにか三つ目も消滅させることができたな」
街の南に出現した〝魔の渦旋〟を片づけた俺は、大きく息を吐いた。
大きな魔法を連発したので、さすがにちょっと疲れたぜ。
だがこの渦が吐き出した魔物も掃討する必要がある。
「追跡型広域駆除魔法」
しかも最初の二つのときより数が多いので、一苦労だ。
「ともあれ、これで俺の役目は果たしたな」
『マスター、闘技場の渦が消えましたね』
「どうやらアンジェたちが上手くやってくれたみたいだな」
アンジェとファナの魔法では難しいので、他の誰かと協力したのだろう。
渦を消し飛ばしたのは、勇者オリオンか、あるいはあのゴリティーアかもしれない。
これで脅威は取り除いたはずだ。
後で詳しい調査をしたいところだが、ひとまずのんびり闘技場に戻るとしよう。
その帰り道の途中である。
「シャアアアアッ!!」
「だ、誰かっ……助けてくださいっ!」
「うわああああんっ!」
「赤ん坊がっ……赤ん坊がいるんですっ!」
魔物に襲われている若い母親と赤ちゃんだ。
俺はリントヴルムを急転回させて駆けつける。
「奥さん、呼んだ?(キリッ)」
「えっ、赤ちゃん!?」
助けを求めて叫んだら赤子が現れ、驚く母親。
『……それはそうでしょう』
彼女の赤子の方もびっくりしてしまったのか、泣き止んでしまった。
「シャアアアッ!」
「よっと」
「~~ッ!?」
蛇の魔物を瞬殺する。
「もう大丈夫だよ、奥さん」
「あ、ありがとう……」
「ところで」
戸惑う彼女の豊満な胸を見ながら、俺は言った。
「僕にもミルクくれないかな? ちょっと喉乾いちゃったんだ」
『馬鹿なこと言ってないで早く戻りますよ』
「あっ、ちょっ、リンリン、なに勝手にっ……お礼ミルクがああああああっ!」
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