第211話 てめぇそれでも漢かああああっ

 魔法の詠唱を始める勇者オリオン。

 無詠唱でも魔法を使うことはできるが、最大の威力を求めるならば、ある程度の時間をかけて詠唱することは必須だった。


 詠唱には集中力と魔力を高め、魔法の出力を上げる効果があるのだ。


 しかしそれを黙って許してくれる〝魔の渦旋〟ではなかった。

 魔力の高まりを感知し、凶悪な魔物を優先的に彼の元へと送り出していく。


 もっとも、それを凌ぐ陣営も非常に強力だった。


「アンジェちゃん、ファナちゃん、ここが正念場よぉん!」

「うっさいわね! 言われなくても分かってるわよ!」

「ん」


 ゴリティーア、アンジェ、ファナの三人でスクラムを組み、一匹たりともオリオンのもとへ近づけさせない。

 加えて彼らには、レウス特製ポーションによるサポートがあった。


「すごい回復能力ねぇ! お陰で多少のダメージなんて気にならないわぁ!」

「どうせあんたは大してダメージ受けないでしょうが」

「あらん、さすがにアタシだって、こんな狂暴な魔物の攻撃は痛いわぁ?」


 そんなことを言い合いながら、どうにか迫りくる魔物を弾き返し続けていると、


「っ……準備完了だ! みんな、ぼくの後ろに!」


 どうやらオリオンの詠唱が終わったらしい。


「あらん、なかなかの魔力ねぇっ! これならいけるかもしれないわぁっ!」


 ゴリティーアたちが素早くオリオンの背後へ回る。

 当然ながら壁がなくなり、魔物がオリオンのところへ殺到してきたが、その直後。




「サンダーストーム……っ!」




 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリッ!!


 闘技場に雷の雨が降り注いだ。

 世界が弾け飛んだのではないかと錯覚するほどの爆音に、瞼を開けていられない凄まじい光量。


 魔物すらも思わず動きを止める中、やがてゆっくりと視界が回復していく。


「ど、どうだ……?」


 息を荒くしながらオリオンが問う。


「渦が……消し飛んだわ……っ!」

「ん、やった」


 巨大な魔力の渦がなくなり、リングが露わになっていた。

 これでもう、新たな魔物が生み出されることはないと思われた、そのとき。


「っ、待つのよっ! まだっ……微かに渦が残っているわっ!」


 ゴリティーアが叫んだ。

 リングの中央、そこにごく僅かにだったが、渦巻く魔力が残ってしまっていた。


「でも、この程度なら……っ!」


 アンジェが自分の魔法を放とうとするも、その渦が急激な速さで大きくなっていく。

 土砂の雨を降らせたものの、多少その勢いを減じさせただけで、渦はどんどん元の大きさを取り戻していった。


「失敗……っ!」


 オリオンが項垂れる。


「ぼ、ぼくのせいで……」


 絶望で顔を歪めるオリオンだったが、それをゴリティーアが叱咤した。


「諦めるのはまだ早いわぁん!」

「ゴリティーアさん……っ! でも、もう魔力が残っていない……っ! それに、さっきは間違いなく全力だったっ……それで上手くいかなかったんだ……っ!」

「うるせぇ! てめぇそれでも漢かああああっ!」

「っ!?」


 いきなり乙女を捨て去ったゴリティーアに怒鳴られ、オリオンがビクッとする。


「オレが漢を見せてやるぜっ!」

「ゴリティーア!? あんた、魔法は使えないでしょ!?」

「魔法? んなものじゃなくても、あいつを吹き飛ばせりゃいいんだろ? だったら、こいつでいけるはずだ!」


 ゴリティーアの全身から猛烈な闘気が立ち昇る。


「闘気っ!? まさか、あたしとの試合で使った……」

「ああそうだ。気功弾だ。……いや、これからやるのはそんなもんじゃねぇ。気功砲だな。なにせ、オレの闘気を残らずぶち込んでやるんだからよぉっ!」

「ちょっと待ちなさい!? そんなことしたら死ぬわよ!?」


 闘気は生命エネルギーだ。

 それを残らず使い果たすということは、命を使い果たすということ。


「はっ、ギリギリ死なねぇ程度の闘気だけは残しておくつもりだ。上手くいけば死なずに済むかもしれねぇぜ」

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