第210話 魔物のことは我に任せよ

 闘技場内は大混乱に陥っていた。


「何をやってる!? 早く進めよ!」

「おい、押すな! 前がつっかえてるんだ!」

「全然進まねぇじゃねぇか!」


 出入り口に人が殺到し過ぎたせいで、まったく人が流れなくなってしまい、外に出ることすらできなくなってしまっているのだ。

 その間にも、リングに出現した渦から続々と魔物が吐き出されていた。


『み、皆さん、慌てないでくださいっ! 順番に! 順番にお願いします!』


 実況が必死に訴えているが、観客たちは聞く耳を持たない。


「ガルアアアアアアアアアアッ!!」

「きゃああああっ!?」


 すでに壁を乗り越え、観客席へと侵入している魔物もいた。

 逃げる場所を失った観客の一人が、魔物の餌食になりかけた、そのとき。


「~~~~~~ッ!?」


 大型の魔物が吹き飛んでいった。


「もう大丈夫よぉん?」


 魔物を殴り飛ばしたのはゴリティーアだった。

 難しい顔をして彼はリングの方を見遣る。


「それにしても、あれは何なの? このままじゃ、人がいっぱい死んじゃうじゃない」

「ゴリティーア!」

「あら、アンジェちゃん」

「あの渦を破壊しない限り、永遠に魔物が出続けるわ!」

「あの渦のことを知ってるの?」

「少しはね! 普通の物理攻撃は効かないから、魔法が必要なのよ! ただ、あたしの魔法じゃ威力不足だし……」


 ともかく二人は渦の方に向かうことに。

 幸いこの大会の出場者たちが、観客を魔物から護ろうと戦い始めている。


「魔物のことは我に任せよ。どのみち我の攻撃は、あの渦には効かぬからな」

「了解よ、あんたに任せたわ!」


 この場はリルに託して、アンジェとゴリティーアは、渦のすぐ近くにいるファナとオリオンのもとへ。

 二人とも魔物に取り囲まれてしまっていたが、無理やり抉じ開けて彼女たちのところに辿り着いた。


「ファナ!」

「ん、アンジェ。師匠は?」


 ファナは疲労と怪我で酷い有様だった。

 オリオンも似たようなものだ。


「街中に同じのが幾つも現れたのよ! そっちを片づけに行ってるから、ここはあたしたちだけでなんとかしないといけないのよ! それよりまずはこれを飲みなさい!」


 言いながらポーションをファナに渡す。

 試合中だったせいで、回復アイテムの類を一つも持っていなかったのである。


「あんたも飲みなさい!」

「かたじけない……っ!」

「回復するまで、アタシが時間を稼ぐわぁっ!」


 ファナとオリオンが急いでポーションを飲み干すと、見る見るうちに傷が塞がっていった。


「な、なんだ、このポーションはっ? こんなにすぐに傷が治るなんて……っ! これほど高性能なポーション、見たことないよ……っ?」


 実はレウス特製のポーションなのである。


「この渦には魔法しか効かないわ! それも中途半端なものじゃ無意味! 一気に消し飛ばすほどの強力な魔法が必要よ! ファナ、あんたできる!?」

「ん、多分、無理」

「まぁそうよね。あんたもあたしも、あくまで魔法はサポートとして使ってるだけだし……」


 そうしている間にも魔物の数が増え続けていた。

 今はまだ辛うじてリルや大会出場者たちが抑え込んでいるが、このままでは観客の多くに被害が出るだろう。


「……ぼくがやろう」


 覚悟を決めた声で告げたのは、オリオンだった。


「ぼくが全力で雷魔法を放てば、この渦を消し飛ばせるかもしれない。……いや、必ず消し飛ばしてみせる。勇者として、そしてこの国の皇子として、ぼくには国民を守る義務がある!」


 無論、オリオンとて、決して魔法が専門というわけではない。

 アンジェやファナと同様、この渦を破壊できるだけの魔法を発動できるかどうかは、かなり微妙なところだろう。


 しかし他に手はない。


「……あんたに任せたわ!」

「ん、頼んだ」

「さすが勇者よぉん! アタシたちは準備の間、是が非でもオリオンちゃんを死守してみせるわぁ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る