第214話 一番戦いたくない相手なんだけど
「ぼくも連れて行ってくれ……っ!」
そう主張したのは勇者オリオンだ。
「勇者として、この街の人たちを護るためにぼくも戦いたいんだ!」
「そう? じゃあ一緒に来てもいいよ」
「本当かいっ?」
『珍しいですね、マスター? 男の同行を許すなんて。てっきり断るかと思いました』
一方で、メルテラは地上に残るつもりらしい。
「わたくしは地上に留まって、魔物の討伐と住民たちの避難に尽力したいと思います」
さらに彼女は念話を飛ばしてきて、
『それに……ここまで大掛かりに禁忌指定物を使ってきたのは初めてでございます。きっと今度こそ犯人の手がかりが掴めるはず』
『なるほど。じゃあ任せたよ』
ゴリティーアもまた地上に留まるようだ。
「アタシも同行したいところだけど、さすがにやめておくわぁ」
「それがいいわ! さっき死の淵から生還したばかりだもの!」
まぁどのみち俺が同行を許さないけどな?
「それで、下層まではどうやって行くんだい? この都市とダンジョンが繋がってるってことだよね?」
「うん、実は心当たりがあるんだ。付いてきてよ」
俺は地上から下層へと繋がるルートへと向かう。
オリオンたちも後を追いかけてくる。
「ところですごく今さらなんだけれど……何で赤子が喋ったり走ったりしてるんだい!?」
「本当に今さらだね……」
「ここは……下水道?」
「うん、そうだよ。この先から下層に繋がってるみたい」
俺が三人を連れてやってきたのは、都市の地下に張り巡らされている下水道だった。
「……臭い」
「下水道だから仕方ないけど、凄い悪臭ね……」
顔を顰めるファナとアンジェ。
汚水の強烈な悪臭に加えて、ネズミが走り、虫が飛び回っている。
「っ……魔物もいる!」
「スライム?」
「汚物を食べるシットスライムだね。汚い水を吐くよ」
「一番戦いたくない相手なんだけど!?」
そんな中を進んでいくと、やがて人工的な地下道の途中に大きな穴を発見した。
その穴の奥を見ると、ごつごつとした岩肌となっている。
「ここがちょうど連結部みたいだ。急ぐよ」
躊躇なくその穴に飛び込み、ダンジョンの最奥を目指す。
「ちなみに元々あったダンジョンを拡張させ、この都市まで繋げてきたはずなんだけれど……近くにそれらしいダンジョンってある?」
「ダンジョンなら幾つかある。ただ、一番近いものですら、数十キロは離れているはず。それをここまで拡張させるなんて……」
「少なくともかなり前から計画を立ててたんだろうね」
戦慄するオリオンに対して、俺は見解を口にする。
「メルテラさんから話は聞いたけれど、あの謎の渦といい、これが何者かの仕業だなんて正直信じられない。しかも一体何の目的でこの国を……」
開発したのは前世の俺だけどな。
目的については俺にもよく分からない。
メルテラによると、これまで一つの禁忌指定物を利用した事件には何度も遭遇してきたが、複数が使用されたケースはこれが初めてだという。
何を目指しているのかは分からないが、ついに犯人が本格的に動き出したのかもしれない。
「けど、相手もまさか、あんなにすぐに渦を破壊されるとは思っていなかったんじゃないかな」
洞窟めいた道に入ってからは、ほとんど直線ルートだった。
これは最短距離でダンジョンを拡張し、都市に繋げたためだろう。
ひたすら真っ直ぐ走り続けていると、やがて広い空間に出た。
「ここからがようやく元のダンジョンだね」
「……なんだかちょっと暑いわね」
確かに急に気温が上がった感じがする。
ここからは普通のダンジョン攻略だ。
寄り道などしている暇はないので、とにかく最短で階段を見つけ、どんどん下層に降りていくしかない。
「次はこっちだね。そしてこっち。ここを真っ直ぐ行ったら、次は左だね」
「ちょ、ちょっと待ってくれっ? どうしてそんなことが分かるんだっ? もしかしてこのダンジョンに来たことがあるのかい?」
「ううん。初めてだよ?」
「じゃあ何でそんなに確信をもって進めるんだ……?」
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