第207話 おいそれと近づけない
リング上で対峙する勇者オリオンとファナ。
「……女の子相手でも、本気で行かせてもらうよ」
「ん、望むところ」
両者ともに武器を構える。
ファナはいつもの二刀流で、一方オリオンはかつての勇者リオンが使っていた伝説の剣だ。
「ファナのミスリル製の剣は、俺が作ったやつだからな。さすがにあのオリハルコン製の勇者の剣には及ばないが、武器ごと破壊される心配はないだろう」
そこらの武器だったら、あの勇者の剣があれば簡単に壊されていたはずだ。
装備が自由だとはいえ、さすがにちょっとズルい気がする。
そんなことを考えていると、開始の合図が響き渡った。
間髪入れずに動き出す二人。
『両者、すぐさま動き出しました……っ! これはいきなり激しい戦いになりそうですっ!』
その実況の予想通り、オリオンとファナの試合は開始直後から激戦となった。
リングの上を目まぐるしく駆け回りながら、剣と剣が幾度となくぶつかり合う。
恐らく普通の観客たちには、その姿を追うことすらやっとだろう。
『ななな、何という戦いでしょうか!? 右に左にと飛び回り、目で追うのも一苦労です……っ! 剣の動きなんて、もはやまったく見えません! ただ凄まじい剣戟の音だけが聞こえてきます……っ!』
ファナは俊敏な動きが持ち味の剣士だが、どうやらオリオンもそれに負けていないようだ。
『あの勇者の鎧、それなりに重量がありそうなのですが』
「いや、見た目より遥かに軽いはずだ。オリハルコンを使えば、極限まで薄くても十分過ぎる防御力を確保できるからな。しかも俊敏性を高める特殊効果もありそうだ」
攻撃の手数は、二本の剣を扱うファナが上回っている。
一本の剣だけでは防ぎ切れないと判断したオリオンは、それを鎧で直接受けていた。
「オリハルコン製の鎧だからこそできる芸当だな。おっ、ファナが魔法を使ったぞ」
ファナの身体を風が覆う。
これでさらに敏捷力が上がったはずだ。
「もう本気を出してきたな。そうしないと勝てない相手だと判断したってことだろう」
次の瞬間、先ほどまでの倍近い速度で、ファナがリング上を疾走した。
『ファナ氏の姿が完全に消えてしまいました!? い、いえ、走る音だけは響いてきていますっ! あまりにも速過ぎて、我々には目で捉えることができないようです……っ! オリオン殿下、果たしてこれにどう対応するのでしょうかああああっ!?』
そのオリオンも、明らかにファナの動きを追い切れていない。
背後から躍りかかったファナに、一瞬遅れて振り返る。
ガキィィィンッ!
「くっ……」
すんでのところでファナの剣を防いだが、今のは運が良かっただけで、恐らくそう何度も上手くいかないだろう。
再び死角から迫ったファナに、今度はまったく反応できていない。
バチバチバチバチッ!!
「~~~~っ!?」
だが攻撃と同時に弾き飛ばされたのは、なぜかファナの方だった。
『優勢だと思われたファナ氏が、リングの上にひっくり返ってしまいました! これは一体、何が起こったのでしょうか!? んっ、オリオン殿下の身体が、光っているような……?』
オリオンの身体を覆う謎の光。
その正体は、恐らく雷だ。
「自らの身体に雷を纏わせることで、攻撃を防ぐどころか、逆に相手にダメージを与えたのか。そういえば、勇者リオンも雷の魔法が得意だったな」
不意の雷撃を喰らって、軽い麻痺状態になっていたファナが立ち上がる。
「……痺れた」
「ぼくの操る雷には、相手を麻痺の状態異常にさせる力もあるんだ」
「すごく厄介」
「君は速すぎるからね。正直この魔法がなければ危なかったよ」
「おいそれと近づけない」
「もちろん、こっちから近づくけれど」
そう言って、今度はオリオンがファナに攻めかかる。
触れただけで雷の餌食になって麻痺させられるとあっては、ファナは距離を取るしかないが、
「もちろん、離れた相手にも攻撃できるけれどね!」
オリオンが放った雷撃がファナに襲いかかった。
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