生まれた直後に捨てられたけど、前世が大賢者だったので余裕で生きてます

第208話 ここは任せるから

　オリオンが雷撃を放つ。

「っ！？　躱した……っ！？」

　だがそれをファナはギリギリで回避。

「まさか、雷を避けることができる人がいるなんて……だけど、何度も避け続けることはできないはずだよ！」

　連続で雷撃をお見舞いしようとするオリオンだったが、そのとき彼の身体が何かに衝突されたように吹き飛ばされた。

「～～～～っ！？」

『オリオン殿下、なぜか後方に吹き飛ばされてしまいました！？　しかもこの勢いっ……ま、まさか、そのままリング外に落ちてしまううううううううっ！？』

　だがリングの端でどうにか耐え切って、観客から安堵の息が漏れる。

「そっちが遠距離攻撃なら、こっちも」

　今のはファナが放った風の砲撃だ。

　風なので目で見えない上に、喰らうと吹き飛ばされて今のようにリングの外に落ちてしまいかねない。

　そこからは雷撃と風の砲撃の打ち合いとなった。

　ファナは雷撃を躱しながら砲撃を放ち、オリオンはその砲撃を避けながら雷撃を放つ。

　しかし分が悪いのはオリオンの方だ。

　なにせ一発でもまともに受けると、そのまま一気にリング外にまで吹き飛ばされてしまうのである。

『大会四連覇中のオリオン殿下が、ここまで苦戦するとは、一体誰が予想したでしょうかあああああっ！？　このまま敗北を喫してしまうと、大会史上最大の大波乱ですっっっ！！』

　観客たちも固唾を呑んで勝負の行方を見守る中、最初に異変を察知したのは俺だった。

「……何だ、この魔力の高まりは？」

　メルテラもすぐにそれに気づく。

「リングからです……っ！　これは、まさか……」

　次の瞬間だった。

　まさに今、ファナとオリオンが激闘を繰り広げているリングから、猛烈な魔力が膨れ上がったかと思うと、そこに漆黒の渦が出現した。

「〝魔の渦旋〟だと……っ？」

　前世の俺が禁忌指定の一つにしていた〝魔の渦旋〟。

　先日、海底神殿でも発見し、破壊した代物が、なぜこんなところに……？

「ちょっと！　この間、海にあったやつじゃないの！　しかもあれよりずっと大きいわよ！？」

　一緒に飛空艇から試合を見ていたアンジェが叫ぶ。

　彼女が言う通り、海で猛威を振るっていたものより、遥かに大きな〝魔の渦旋〟だ。

　リング全体を覆い尽くしても飽き足らず、観客席のすぐ手前まで届いている。

「あれは大きければ大きいほど、凶悪な魔物が大量に吐き出されてくる……なかなかマズい状況だな」

　すでに最初の数体が湧き出してきていた。

　どれも大型の魔物ばかりで、見ただけで危険度の高い魔物だと分かる。

　当然ながら会場は大パニックだ。

『い、一体これは、何が起こっているのでしょうか！？　突如として不気味な渦が発生したかと思うと、そこから魔物が現れました……っ！』

　無論、その魔物はリング上にいたファナやオリオンに真っ先に襲いかかった。

「グルアアアアアアッ！！」

「くっ……何だ、この黒い渦はっ！？　それにこの魔物はっ……」

「ん、魔物を生み出す渦」

「この渦のことを知っているのかっ！？」

　魔物を斬り倒しながら、そんなやり取りをする二人。

「がっ！？」

『ああっ！　オリオン殿下が、魔物の突進を受けて吹き飛ばされてしまいましたっ！　一方のファナ氏も、次々と迫りくる魔物に防戦一方ですっ！　この二人でも苦戦するなんて、明らかに普通の魔物ではありません……っ！　し、しかもっ、まるでコバエのように次から次へと湧き出してきます……っ！』

　狂暴な魔物ばかりということに加え、試合での疲労もあるのだろう、ファナもオリオンも圧倒されてしまっている。

　このままでは魔物の群れに押し潰されてしまうだろう。

「アンジェお姉ちゃん、それにリル、すぐに加勢してあげて。ここは任せるから」

「了解だ」

「ちょっと、どういうこと！？　あんたはどうするのよ！？」

「僕とメルテラは他のやつを潰してくるから」

「他のやつ……？」

「ほら」

　俺は街中を指さす。

　するとそこにもまた、闘技場に出現したのと同じくらいの大きさの〝魔の渦旋〟があった。