第200話 ついうっかりリングを壊しちゃって
『こ、これは……っ!? 信じられないことに、ゴリティーア氏、戦わずして決勝トーナメントへの進出を決めてしまいました! これがSランク冒険者の実力……っ! 圧倒的ですっ!』
実況の驚きの声が会場に響き渡る。
「ふむ。やはり只者じゃないな、あの漢」
「そうでございますね。人間たちの力が弱体化したこの時代にあって、あれほど自らを鍛え上げてしまうとは驚きでございます。きっと千五百年前でも通用したでしょう」
予選九組目の試合を飛空艇から見ていた俺とメルテラは頷き合う。
『あ、えーっ、亀裂の入ったリングの修復のため、しばしお時間をいただきます! ちなみにこのリング、この国が誇る一流の錬金術師たちが、ちょっとやそっとのことでは壊れないよう、頑丈に造ったものなのですが……それにたった一撃でこんな亀裂を入れてしまうとは、ゴリティーア氏、改めて恐ろしいパワーです!』
リング上に慌てて走ってきた錬金術師たちが、大急ぎで修復作業を進めていく。
あのくらいの傷、俺なら一瞬で塞げるけど、あの様子じゃ三十分はかかりそうだな。
「ん? なんかリング脇にあの漢が出てきたぞ」
なぜか錬金術師たちが作業しているリングの近くに、いったん退いたはずのゴリティーアが再登場する。
「みんな、ごめんねぇ! アタシったら、ついうっかりリングを壊しちゃって(てへぺろ)。お詫びに修復が終わるまで、アタシが踊っててあげるわぁん! たたたたたた~ん、たた~ん、たたたたたた~ん♪」
ざわついていた会場が一瞬で静寂に包まれた。
観客たちの頬が思い切り引き攣っている。
スタッフたちも動揺している様子なので、きっと許可などなく、勝手に踊っているのだろう。
しかし誰一人として、ゴリティーアを止めようとしない。
「たたたたたた~ん、たた~ん、たたたたたた~ん♪」
それを自分の踊りに見入っていると勘違いしたのか、ゴリティーアは気持ちよさそうに踊り続ける。
時に大胆に、時に優雅に、時に静謐に。
同じ踊りでも、強弱と緩急をつけながら、少しずつその色合いが変わっていく。
「って、待て待て。何で俺はじっくり見ているんだ? 正直まったく見たくないのに……なぜか目が離せないというか、ついつい見てしまう……」
「そうでございますね……」
「もしかして何か特殊な効果のある踊りなんじゃないか……?」
その後、修復作業が終わるまでずっと地獄の時間が続いたのだった。
結局四十分ほどかかって、ようやくリングの修復が終わった。
『さ、さて! それでは気を取り直して、試合再開と参りましょう……っ!』
会場が疲労感に満ちた空気に包まれる中、実況が懸命に盛り上げようと声を張り上げる。
だが続く第十組目と第十一組目は塩試合。
その次の第十二組目は白熱した展開にはなったものの、いまいち観客も乗り切れないまま決着がついてしまった。
そして第十三組目。
アンジェの登場だ。
「この組で最注目はAランク冒険者のアンジェ氏です……っ!(先ほどファナ氏のときは事前の資料の読み込みが甘かったが、今度こそ……っ!)彼女もファナ氏と同い年でのAランク冒険者ということで、かなり期待が持てます! しかも種族はあの有名な戦闘民族、アマゾネス! これはもう間違いないでしょう!(ていうか、お願いします! どうかこの微妙な会場の雰囲気を払拭してください!)」
実況の声にやけに力が入っている。
尻すぼみになりつつある空気を、どうにかしようと頑張っているようだ。
「な、なんか逆にやり辛いわね……」
リングに上がったアンジェは苦笑している。
実況のせいで他の出場者たちから完全に警戒されていて、むしろ不利な状況になってしまっていた。
「ま……期待には応えられると思うけどねっ」
そうして鐘が鳴ると同時、アンジェは自らリングの中央へと走っていった。
『アンジェ氏、なぜかリング中央へ!? 全方位から狙われる場所に自分から移動しました!? これは一体どういうつもりでしょうか!?』
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