第201話 何でまた赤ちゃん返りしてんのよ

「ちっ、Aランク冒険者だか知らねぇが、随分と舐めてくれてるじゃねぇか」


 試合開始とともに自分から不利な場所に移動したアンジェに対し、出場者の一人、巨大な戦斧を手にした大男が面白くなさそうに吐き捨てる。

 さらに他の出場者たちもそれに同調し、


「小娘が調子に乗りやがって」

「はんっ、今すぐに後悔させてやるぜ」


 挑発されたと思ったのか、全員が共闘してまずはアンジェ一人を倒すつもりらしい。


「そうこなくっちゃ」

「いくぜっ! オラアアアアアッ!!」


 真っ先に動いたのは先ほどの大男だ。

 意外にも俊敏な動きで距離を詰めると、横に薙ぐように豪快な戦斧の一撃を繰り出す。


 だが戦斧は空を切った。

 アンジェの姿は大男の目の前にはない。


「っ!? どこに行きやがった!?」

「ここよ?」

「なぁっ!?」


 大男が振り切った戦斧。

 アンジェはその刃の上に乗っかっていた。


「はっ」

「~~~~~~~~~~ッ!?」


 大男の顔面へアンジェの蹴りが叩き込まれると、巨体が石ころのように吹き飛んだ。

 そのままリングの外まで転がり落ち、大男は気を失ってしまう。


「口ほどにもないわね」

『ななな、なんと、アンジェ氏! たった一撃で、前回の予選で大活躍したバモン氏をノックアウトしてしまいましたああああああああっ! しかもあの戦斧を躱す瞬間が、まったく見えませんでしたっ!! これはやはり本物です……っ!』

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 大歓声が轟く。

 一方、慌てたのは他の出場者たちだ。


「馬鹿野郎っ、抜け駆けするんじゃねぇっ!」

「全員で一斉にかかるぞ!」

「情けない戦い方ね? まぁ、それでもあたしは倒せないだろうけど?」

「んだとっ!?」

「おい、挑発に乗るんじゃねぇ!」


 所詮は付け焼刃の共闘だ。

 連携など期待できるはずもなく、結局それからバラバラに攻撃を仕掛けたりして、一人また一人をアンジェに倒されていく。


「大したことなかったわね」

「ぐ……くそ……」


 最後の一人がリング上で気を失い倒れ込んだところで、試合終了。


『アンジェ氏、Aランク冒険者の強さを見せつけました! 前評判通りの大活躍です! ありがとうございます!』


 その後、残る二組の試合が終わったところで、決勝トーナメント進出者十六名が決定したのだった。






 決勝トーナメントに出場できるのは十六名。

 トーナメントの組み合わせは、全員がクジを引いて決められる。


 予選の全試合が終わったところで、そのクジ引きが行われた。


『こ、この組み合わせはっ!? 一回戦からいきなり好カードの連発ですっ! なんと、第二試合でゴリティーア氏とアンジェ氏が対戦! さらに、第七試合では勇者オリオンとファナ氏が激突しますっ! 全員優勝候補とも言えるこの四人のうち、二名が一回戦から脱落してしまうということになりますっ! 大波乱必至の決勝トーナメントになりそうですっ!』


 そうして二日目の日程が終了。


 ファナとアンジェが飛空艇に戻ってきた。

 そこらの街の宿よりもずっと設備が良いので、寝泊まりもこの飛空艇でしているのだ。


「あのゴリラ漢と戦えるのね! 燃えてくるわ! そしてあいつに勝ったら、決勝であんたと勝負よ! 勇者なんかに負けるんじゃないわよ!」

「ん、負けない。……アンジェはゴリちゃんに負けそう」

「何でよ!? 負けないわよっ!?」

「たぶん無理」

「やってみなくちゃ分からないでしょうが!」


 アンジェとゴリティーアは共に格闘タイプだ。

 身体能力がモノを言うが、スピード以外は正直ゴリティーアが圧倒しているのだろう。


 アンジェに勝ち目があるとすれば……。


 むんずっ。


「ほえ?」


 いきなりアンジェに首根っこを掴まれた。

 鞄でも持つような持ち方だ。


「今から訓練に付き合いなさい! 明日までに少しでも強くなってやるわ!」

「ばぶー?」

「何でまた赤ちゃん返りしてんのよ!」

「ばぶばぶー?」

「え? ちゃんと抱っこしないと付き合ってあげない? 何でよ!」

「ばぶばぶ……」

「わ、分かったわよ! 抱っこすればいいんでしょ!?」



――――――――――――

『生まれた直後に捨てられたけど、前世が大賢者だったので余裕で生きてます』の第4巻が本日、発売されました! またコミック第4巻も12日に発売されています!!

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