第199話 戦いの途中に目を逸らすなんて

 他の出場者全員に狙われるも、ゴリティーアはむしろ嬉しそうだった。


「あらぁん、アタシったら、大人気みたいねぇん♡」


 地獄の微笑みと共に彼がウィンクをすると、会場のあちこちで「おえええっ」という声が聞こえてきた。

 取り囲んでいる出場者たちも頬を引き攣らせ、思わず視線を逸らそうとしてしまう。


「そこっ!」

「っ!?」


 そのうちの一人、剣士の男をいきなり一喝するゴリティーア。


「戦いの途中に目を逸らすなんて、絶対にしちゃいけないわっ! アタシがその気だったら、今アナタ死んでるわよ!」

「くっ……」


 真っ当な指摘に、その剣士は何も言い返せない。

 ただ慌ててゴリティーアの動きを注視する。


「そう! しっかりアタシを見るのよっ! みんなもよっ! 分かったわね!」


 そうして全員の真剣な視線を一身に浴びる中、ゴリティーアは――




 ――踊り出した。




「たたたたたた~ん、たた~ん、たたたたたた~ん♪」


 謎のメロディーを口ずさみながら、その巨体で無駄に優雅な踊りを披露するゴリティーア。

 手足の先にまでしっかり意識が向いているようで、足先は常にピンと伸びきり、武骨なはずの手の指は色っぽさを感じるほどの繊細な動きをしている。


「たたたたたた~ん、たた~ん、たたたたたた~ん♪」


 先ほどの一喝もあってか、誰もそんな彼から目を離すことができない。

 Sランク冒険者の謎の行動に、会場もシンと静まり返り、ただゴリティーアの野太い声のメロディーが響き渡る。


 そのまま時間だけが過ぎていき、やがて一分ほど踊り続けただろうか。




「「「「「いや俺たちは何を見せられている!?」」」」」




 リング上の出場者たちが一斉にツッコんだ。


「貴様っ、何なんだ、その踊りは!?」

「こんなに注目されて、つい踊りたくなっちゃったの♡」


 単に踊りたかっただけらしい。


「い、今すぐやめろ! 見ていると精神がおかしくなりそうだ!」

「ここは貴様のための劇場じゃないんだぞ!?」

「夢に出てきそうで怖い……っ!」


 出場者たちが声を荒らげる。


「あらぁん、随分と失礼な物言いねぇ? アタシの踊りの美しさが分からないなんて……」

「分かって堪るか! おい、とっとやるぞ! これ以上、こいつの好きにさせるな!」

「「「おおおおおおおおおっ!!」」」


 激怒した他の出場者たちが、雄叫びと共にゴリティーアに襲いかかった。


 先ほどファナも同じように集団から集中砲火を受けたが、常にリングの上を動き回り、上手く攻撃を回避しながら戦っていた。

 だがゴリティーアはその場から一歩も動かない。


 剣が、槍が、拳が、魔法が、その巨体へ次々と叩き込まれる。

 幾ら鋼のような筋肉に覆われているとはいえ、相手も武闘大会に出るような腕自慢たちだ。


 さすがのSランク冒険者も一溜りもないと思われたが、


「ああんっ! 良いわねぇ! もっともっと攻めてきてちょうだぁい……っ!」

「っ!? 馬鹿な、まったく効いていないだと!?」


 ダメージを受けた様子がない。

 それどころか、むしろ喜んでいる。


 思わず攻撃の手を緩めてしまうと、


「だめだめぇっ! この程度じゃアタシは喜ばせられないわよぉん!」

「誰も喜ばせようなんて思ってねぇよ!?」

「何なんだ、この男は!?」

「本物の化け物かっ!?」


 狼狽える出場者たち。


「あらぁん、残念ねぇ……もうお終いなのぉ? アタシはまだまだイキ足りないのにぃ……」


 つまらなさそうにゴリティーアが嘆息する。

 それから大きく息を吸ってから、思い切り拳をリングに叩きつけた。


 ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


「「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」」」


 闘技場全体が揺れるほどの衝撃。

 リングに凄まじい亀裂が走り、周囲にいた出場者たちの身体が一瞬宙へと浮き上がった。


「「「あ、あ、あ……」」」


 そのままリング上で尻餅をついてしまった出所者たちの中に、もはや戦闘を継続する意思のある者はいそうになかった。


「アタシ、弱い者イジメは嫌いなのよねぇ? 降参してくれるかしらぁ?」


 ゴリティーアの提案に、全員そろって頭をぶんぶんと縦に振ったのだった。


―――――――――――

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