第198話 大人気みたいねぇん
名の知れた騎士が生き残ったことで、大いに盛り上がった予選第一組。
その勢いそのままに、続く第二組も白熱した戦いで観客が湧いた。
ただ、必ずしもすべての組で盛り上がるというわけではなく。
予選第三組の試合では、有力選手たちが真っ先に脱落するという波乱のスタートだったものの、その後は残った者たちが長々と牽制し合ったせいでなかなか決着がつかず、観客から怒声が浴びせられるほどだった。
予選第四組でも、早々に有力選手が破れ、その後は第三組ほど長い試合にはならなかったものの、いまいち盛り上がりに欠けるグダグダとした試合展開に。
そして最後は試合開始から消極的な戦いしかしていなかったシーフの男が、ぬるっと勝ち抜いてしまった。
そんな感じで消化不良気味の試合が続いた後に、予選第五組で登場したのがファナだ。
「おいおい、あんな小娘まで出場できるのかよ!」
「今回から出場制限があるんじゃなかったのか!」
「むしろ前回よりレベルが下がったんじゃねーかっ!」
あちこちから容赦のない野次が飛ぶ。
もちろんファナは、そんな声などどこ吹く風だ。
そして試合が始まるなり、野次を飛ばしていた観客たちが押し黙ることとなった。
「ん」
「ぎゃっ!?」
「ん」
「ぐはっ!?」
「ん」
「どぐおっ!?」
リング上はまさにファナの独壇場だった。
ぐるりと時計回りに走り出した彼女が、近いところにいる相手から順番に斬り倒していったのである。
「こ、この女、かなりできるぞ!?」
「全員で囲めっ!」
慌てた他の出場者たちが、一斉にファナ一人を取り囲み、次々と躍りかかった。
だが複数人でも、ファナを止めることはできなかった。
『な、なんという強さでしょうか!? まだ十代と思われる少女が、腕自慢の戦士たちを軽々と切り捨てていく……っ! おっと!? い、今、手元の資料を確認したところ、なんとファナ氏、この歳でAランク冒険者のようですっ! 道理で強いわけです……っ!』
ファナの実力を侮っていたのか、実況は慌てて資料を確認したようだ。
「た、ただの小娘じゃなかったんだな……」
「Aランク冒険者とは……」
「お、俺は薄々、そうなんじゃないかと思っていたけどな……?」
先ほど野次を飛ばしていた連中は気まずそうである。
やがて最後の一人が倒されると、会場はこの日一番の大歓声に包まれたのだった。
その後、八組目までの試合が終わったところで、予選の初日が終了。
次の九組目からの試合は二日目へと持ち越された。
そして翌日。
『さあ、予選からすでに大白熱の武闘大会も、二日目となりました! 本日ついに、決勝トーナメントに進む全選手が決定します!』
前日に引き続いて満員御礼の中、九組目の試合へ。
『この組における最大の有力選手は、なんといっても、やはりSランク冒険者のゴリティーア氏でしょう! これまでAランク冒険者は、何度かこの大会にも出場してきましたが、Sランク冒険者は初! 世界でも数えるほどしかいないとされるSランクの実力に、注目が集まります!』
円形リングへ出場者たちが上がってくる。
「な、なんてデカさだよ」
「190センチある大男も、隣に並ぶと小さく見えるぜ……」
「だがそれよりも……なんて格好だ、あれは……?」
体格のいい者たちが多い中にありながら、ゴリティーアの巨漢はひときわ目立つ。
無論、その容姿や服装もめちゃくちゃ目立っていた。
「あ、あのままの格好で出場されるのでございますね……」
「武器も持ってないな。あの鍛え抜かれた身体そのものが武器ってことか」
そのゴリティーアを、出場者たち全員が警戒している。
ファナのときと同様、恐らくゴリティーア一人対残り全員といった戦いになるだろう。
そして予想通り、鐘の音が鳴ると同時に、他の出場者たちが協力し合ってゴリティーアを取り囲む。
しかもファナのときと違って、しっかりとした陣形を組んでいた。
どうやら事前に打ち合わせをしていたのだろう。
「あらぁん、アタシったら、大人気みたいねぇん♡」
ゴリティーアは嬉しそうに腰をくねらせ、ウィンクをしてみせた。
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