第197話 ちょっと恥ずかしい負け方です

「「「きゃあああああああっ! 勇者様あああああああああっ!!」」」


 勇者の登場によって、会場が一斉に黄色い歓声に包まれた。


 皇子というこれ以上ない出自に加えて、あの整った顔立ち。

 やはり圧倒的な女性人気である。


「ちっ、あいつが大観衆の前で負けて、女の子たちから幻滅される姿を見られるのは、決勝トーナメントに入ってからか」

『マスター、赤子とは思えないような邪悪な顔をされてますよ?』


 その勇者はリングの中央で腰の鞘から勢いよく剣を抜き放つと、空に向かって切っ先を掲げてみせた。


 この日は目の覚めるような蒼天。

 降り注ぐ太陽光が、オリハルコンの刀身に反射して煌めいている。


 あまりにも絵になる姿に、一瞬会場が静まり返った。

 その隙をつくように、勇者がよく通る声を張り上げる。


「第七皇子オリオン=アルセラルの名において、武闘大会の開催を宣言する!!」


 たった一言、シンプルな宣言だった。

 それがかえって良かったのだろう、直後、爆発するような大歓声が届いた。


「皆の健闘を祈る!」


 最後にそう言い残して、勇者は颯爽とリングを下りていった。


「なるほど、さすが皇子というだけはございますね。この大観衆の中にあって、見事なほどの堂々とした立ち居振る舞いでした」

「まぁ勇者リオンにはできなかっただろうな、こういう真似は。あいつは貴族のような見た目のくせに、あんまり品がなかったし。田舎出身だから仕方ないが」


 その子孫が今や王族となり、それに相応しい気品まで身に着けたわけだ。


「……しかし、空からではあるが、こうしてしっかり現勇者を見てみると、なんかちょっと違和感がなかったか?」

「? 特に何も感じませんでしたが?」

『わたくしもですね。違和感というのは具体的には?』

「うーん、なんだろう?」


 リントヴルムに詳細を求められるが、生憎と俺自身でもいまいちはっきりしない。


「感覚的なことなんだが……なんとなく、これじゃない感があるっていうか……」

「それはレウス様が、勇者リオンのことを知っているからではございませんか? 同じ勇者装備を身に着け、子孫であるとはいえ、あくまで別人ですから。そこに違和感を覚えているのでは?」

「そうかなぁ?」


 そんなやり取りをしていると、すでに予選の最初の試合が始まろうとしていた。

 第一組目に振り分けられたおよそ十名の腕自慢たちが、一斉にリング上にあがってくる。


『さあ、全員所定の場所についたようですね! ちなみに最初の位置取りはランダムで決めていまして、出場者たちにあらかじめ伝えてあります!』


 位置取りによって多少の有利不利が出るからだろう。

 円形のリングなので、ちょうど等間隔に出場者が並ぶ形だ。


 まぁそもそも大勢で一斉にやり合うスタイルにしている時点で、あまり公平ではないが。

 相手との距離が必要な魔法系の出場者とか、明らかに分が悪いし。


 ゴオオオオオオオオンッ!!


 開始の合図だろう、鐘の音が鳴り響いた。


『予選第一組の試合が始まりました! おおっと! 開始と同時、いきなり武闘家のマオ氏が、物凄い勢いで隣の槍士ピット氏に飛びかかりました! 一瞬で間合いを詰められたピット氏、マオ氏の拳打を喰らって吹き飛ばされてしまう……っ! そして魔法剣士のアルスト氏もまた、速攻を仕掛けました! しかしこちらは騎士バリューマ氏によって、あっさり返り討ちにされてしまう……っ! ちょっと恥ずかしい負け方です!』


 最初は互いに牽制し合って、すぐには試合が動かないかと思っていたら、予想以上に最初から激しい戦いになった。

 ものの一分ほどで、一気に半分近くまで人数が減ってしまう。


 なお、円形のリングから落下してしまったり、戦闘不能になってしまったり、あるいは降参したり審判がドクターストップをかけたりすると、脱落となる。

 また意図的に相手を殺したりしてもその時点で失格負けだ。


 そうして途中、四つ巴の乱戦になったりしつつ、最終的には盾を使って上手く攻撃を防ぎながら、バリューマという名の屈強な騎士が生き残った。


『帝国騎士団のバリューマ氏が、熟練の戦いぶりを見せつけ、決勝トーナメント進出を決めました……っ!』


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