第196話 道理で強そうなわけね
「な、なぁ、あの巨漢、もしかして……」
「あの格好にあの筋肉……間違いねぇ、Sランク冒険者のゴリティーアじゃねぇか」
「マジか。Sランク冒険者も出場するのかよ」
俺たちが謎の漢、ゴリティーアとやり取りしていると、他の出場者たちからそんな声が聞こえてきた。
「Sランク冒険者?」
「道理で強そうなわけね!」
冒険者の頂点。
それがSランク冒険者だ。
世界にも数人しかいないらしいし、出場者たちがこの漢を知っているのも頷ける。
「うふふ、アタシはただひたすら美を追求して生きてきただけ。そうしたら、いつの間にかSランクになっちゃってたのよぉ」
明らかに美よりも武の才能の方があると思うのだが、本人は理解していないのだろうか?
そうこうしているうちに、ついに組み分けが発表された。
全部で十五組あるのだが、出場者の名前を書いた大きな紙が張り出されるのである。
「ん、五組目の出場」
「あたしは十三組目よ!」
「アンジェとは別の組」
「あんたとやるのは決勝トーナメントまでお預けってことね!」
どうやらファナとアンジェは上手く他の組に分かれてくれたようだ。
「あら、アタシは九組目のようねぇ」
ゴリティーアも別の組らしい。
「ぎゃあああっ、オレ、ゴリティーアと同じ組だっ……終わった……」
「ま、まぁ、元気出せよ」
「クソッ、俺も九組目じゃねぇか! 決勝トーナメントに進めたら、彼女にプロポーズするつもりだったのによっ!」
「ご愁傷様……」
彼と同じ組に入った出場者たちは阿鼻叫喚といった感じだ。
無論、逆にやる気を出している者もいる。
「いや、これはむしろチャンスだ。あの漢は間違いなく決勝トーナメント進出の最有力。となれば、確実に全員が狙うはず。上手くいけば、一人対全員の戦いに持ち込めるかもしれない。前回決勝トーナメントに進み、本来なら狙われる立場だった俺にとって、それはかえって好都合だ」
不敵に笑っているのは、どうやら前年の大会で活躍した男らしい。
「そもそも前回大会だって、有力な出場者が何人も予選で姿を消した。予選の方式から考えてある意味、当然のことだろう。むしろ力のある出場者を決勝に上げないようにしている可能性も……おっと、これ以上はマズいな。誰が聞いているか分からない」
ここに聞いてる赤ちゃんがいますけどねー?
「アナタたちならほぼ確実に決勝まで上がれると思うわぁん。もし戦うことになったら、そのときはよろしくねぇ♡」
「ん」
「Sランクが相手でも負けないわ!」
ゴリティーアはウィンクをしてから踵を返すと、大きなお尻を振りながら去っていった。
そうして翌日。
いよいよ武闘大会がスタートした。
初日と二日目は予選で、決勝トーナメントは三日目からだ。
にもかかわらず、数万人を収容できるという闘技場の観客席はすでに超満員だった。
出場者であるファナとアンジェには座席が用意されていたが、残念ながら俺とメルテラ、そしてリルにはなく、しかも座席はすでに立見席も含めて完売していた。
このままでは応援することもできないところだったが、
「むしろ特等席をゲットだぜ」
俺たちは闘技場の上、空に浮かぶ飛空艇の中にいた。
中央に用意された円形のリングを、真上から見下ろすことができる場所だ。
「……いいのでしょうか、こんなところで見て?」
「大丈夫大丈夫。ステルスモードにしてるからまずバレないはずだ」
「さすが我が主。ここならよく見えるぞ」
そのとき会場中に大きな声が響き渡った。
『皆様、長らくお待たせいたしました! いよいよ武闘大会の開幕です! わたくしは実況を務めさせていただくマルコビッチと申します!』
魔法で音量を上げているらしい。
『それでは開会宣言と参りましょう! 宣言してくれるのはもちろんこの方! 前回大会覇者にして、伝説の勇者の血を引く、この国の皇子! オリオン=アルセラル殿下ですっ!』
そうして観客が大歓声を響かせる中、リングの上に勇者装備に身を包んだ青年が姿を現した。
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