第194話 人望でしょう
結局、武闘大会にはファナとアンジェの二人だけが出ることになった。
そうして翌日、勇者祭が始まると、元から賑やかだった街が、さらに賑わいを増した。
街の至るところが華やかに飾り立てられ、勇者の装備を模したと思われる鎧に身を包んだ人たちが、大通りを練り歩いている。
さらに街のあちこちに勇者の像が設置され、そこで祈りを捧げる人たちの姿も。
『さすが勇者ですね。死後も大人気です。誰かさんとは違いますね、マスター』
『くっ……俺だって実績じゃ勇者にも負けてないはず……っ! 何でこんなに違うんだっ?』
『人望でしょう』
こんなことなら、俺ももうちょっと生まれ故郷に貢献しておくべきだったかもしれん。
実家を出てから結局一度も帰らなかったからなぁ。
もし前世の俺の故郷もこんなふうに大国の首都になっていたら、大賢者祭なるものが開催されていたかもしれない。
『そこへ颯爽と現れる大賢者の生まれ変わり……国中の美女たちが殺到し、一瞬で大ハーレムを作り上げられていたかもしれない……っ! ああ、なんと勿体ないことをしたんだ……』
俺が嘆いていると、急に周囲の人たちが騒めき出した。
「勇者様だ! 勇者様だぞ!」
「「「勇者様~~っ!」」」
え? 勇者?
大勢の人が行き交う大通りの向こう。
護衛らしき騎士たちに囲まれながら、明らかに他の勇者コスプレたちとは違うオーラを持つ青年が、馬に乗ってこちらに近づいてくるのが見えた。
絹のような美しい金髪に、宝石のような碧眼。
整った顔立ちはまるで、神が精巧に作り上げた彫像のようだ。
その姿は、まさしく俺と共に魔王を討伐した勇者リオン――
「……いや、本物じゃないな」
一瞬勇者リオンかと思ったが、違う。
俺が知る勇者も金髪碧眼の美青年で、その特徴だけ挙げれば確かによく似ているが、さすがに同一人物でないことは遠目から見ても分かる。
ただ、身に着けている装備はもしかしたら本物かもしれない。
レプリカなどではありえない強い輝きを放っていて、間違いなく伝説の金属とされるオリハルコン製だろう。
「彼は恐らくこの国の第七皇子、オリオン=アルセラルでしょう。勇者の血を引く皇家の方で、勇者祭の武闘大会は彼のために創設されたそうでございます。創設から前年度まで四連覇中で、それゆえ勇者リオンの生まれ変わりと言われています」
メルテラが教えてくれる。
なるほど、あの勇者の子孫なのか。
似ているのも頷ける。
しかし、生まれ変わり、か……。
『マスターと同じように転生されたのでは?』
『その可能性はないな』
『というのは?』
『本当にあの勇者なら、
『なるほど』
大歓声の中、その勇者一行は俺たちのすぐ目の前までやってくる。
「当然、彼も今回の武闘大会に出場されるでしょう」
「勇者と戦えるかも?」
「面白そうね!」
武闘大会で優勝すると、あのオリハルコンの勇者装備が貰えるわけか。
いや、本当にそんな貴重なものをあげていいのか……?
『万一彼が敗北を喫した場合はこっそりレプリカと入れ替えるのでは? もしくは絶対に負けるはずがないと高を括っているか』
『勇者はあの装備を身に着けて出場するんだろうか?』
『きっとそうでしょう』
『だったらそうそう負けはしないだろうな』
中身がイマイチであっても、あの装備を身に着けていれば、弱体化したこの時代の人間相手で後れを取ることはないだろう。
もっともあの勇者、勇者リオンと比べてしまうと全然だが、決して弱いわけではない。
今のファナやアンジェでも、勝てるかどうか――
「「「きゃーっ! 勇者様かっこいい~~っ! おっぱい揉んで~~っ!」」」
「――敗北しろクソリア充っっっ!」
不意に聞こえてきた美女たちの黄色い声援に、俺は思わず叫んでしまった。
てか、皇子の上に勇者だと?
見た目も超イケメンだし、どう考えても恵まれ過ぎだろ!
しかも美女たちに「おっぱい揉んで」と言われても、完全な無反応である。
きっと普段から美女の巨乳を揉みまくっていて、今さら気にも留めないのだろう。
俺なら今すぐ彼女たちの胸に飛び込んでいく。
羨まし過ぎる、もとい、許せん……っ!
「お姉ちゃんたち、絶対に勝ってね! あんな勇者に負けないで!」
「ちょっと、急にどうしたのよ?」
「大勢の目の前で年下の女の子に負ける……そうすれば勇者の称号は失い、装備は奪われ、国民からは幻滅され……くくく、メシウマだぜ……」
「……レウス様、性格が悪すぎではございませんか?」
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『ただの屍のようだと言われて幾星霜、気づいたら最強のアンデッドになってた』コミカライズ版第3巻、本日発売です!!
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