第192話 戦闘民族の血が騒ぐわ
「これが新聞ね」
新聞社の建物内に入ると、ロビーらしきところに刊行されたばかりの新聞が置かれていた。
誰でも読むことができるようなので、手に取ってどんなことが書かれているのか確かめてみる。
「確かに文字ばかりだね。所々に絵があるけど。内容は、と。なになに? ――空を飛ぶ謎の物体を目撃! 古代の飛行船か? ――Aランク冒険者パーティ、ついに『大賢者の塔』へ! 世界初の偉業を達成。――人気の海水浴場に魔物が原因不明の大量発生。地元漁師も漁ができず嘆く」
……なんかどこかで聞いたことのある情報が書かれているような?
「ええと、他には……。――勇者祭の武闘大会、今年も開催。すでに過去最大の出場希望者」
勇者祭?
「どうやらこの国で毎年この時期に行われている祝祭のようでございますね。伝説の勇者リオンを讃えるため、世界各地から観光客が訪れると書いてあります。なるほど、あの行列はそのせいでしたか」
さらに記事を読み進めてみると、この勇者祭で、数年前から武闘大会なるものが行われているらしい。
世界中から集った腕自慢たちが競い合い、優勝者には『勇者』の称号を与えられるという。
「優勝したら勇者になれる?」
「すごいじゃない!」
ファナとアンジェが目を輝かせた。
「しかも当時の勇者が装備していた武具を贈呈されるって書いてある。そんな貴重なもの、あげちゃっていいの?」
「ん、出るしかない」
「そうね! 戦闘民族の血が騒ぐわ!」
何やら二人ともやる気満々だ。
だがメルテラが首を左右に振って、
「いえ、残念ですがそんな暇はございません。ここ最近は禁忌指定物の起こす事件が頻発しています。すぐにでも次の現場に向かわないと――」
「おおっ、メルテラ殿、戻ってこられたっすか!」
急に元気のいい声が聞こえてきて振り返ると、そこにいたのはピシッとした服に身を包んだ快活な印象の女性だった。
「マチルア様」
マチルアと呼ばれたその女性は、どうやらこの新聞社の記者らしい。
「魔物の大量発生を解決してまいりました」
「マジっすか? 詳しく聞かせてほしいっす!」
禁忌指定物のことは伏せつつ、海底神殿の奥にあった渦のことを話すメルテラ。
「というわけでございました」
「なるほどっす! 突然の魔物の大量発生の原因は、魔物を生み出す謎の渦! Aランク冒険者たちの活躍で、海辺に平和が戻った! しかし謎は残ったまま! 一体この渦の正体は!? って感じっすね!」
最新の情報を得ることができたマチルアは嬉しそうだ。
「メルテラ殿のお陰で、いいニュースが入ったっす!」
「いえいえ、こちらこそ、いつも情報をありがとうございます。ところで何かまた気になる事件などありませんでしたか?」
新聞は週刊、つまり週に一回しか発行されないという。
そのため新聞が発売されるのを待っていると、どうしてもタイムラグが生じてしまう。
どうやって知り合ったのかは分からないが、メルテラはこうして記者であるマチルアから直接情報を得ているらしい。
「事件を解決して帰ってきたばかりなのに、もう次っすか? 相変わらず働き者っすねぇ。詳しい事情は知らないっすけど、あまり無理はしない方がいいっすよ?」
「若い肉体ですから、多少の無理は平気でございますよ」
「さすがにちょっと若すぎるっすけど」
マチルアは苦笑してから、
「ん~、そうっすねぇ……メルテラ殿が欲しがるようなのはたぶん、今のところないっすね」
「そうでしたか」
「ところで……見かけない人たちっすね?」
そこで初めてマチルアの注目が俺たちへと向いた。
「彼女たちもAランクの冒険者でございます。今回の事件を解決できたのは、実はほとんど彼女たちのお陰です」
「すごいっすね! 全員Aランク冒険者っすか! みんな若いのに! ……この赤子は?」
「僕も一応Aランク冒険者だよ」
「あああ、赤子が喋ったっすうううううううっ!?」
さっきからメルテラも喋っていただろ。
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