第191話 だって文字ばっかりだし
勇者リオン。
かつて俺と一緒に、魔王と呼ばれていた凶悪な魔族を倒した男だ。
「へえ。あいつの出身地なのか」
「はい。今では伝説の存在として、神のごとく崇められています」
魔王討伐後はほとんど会う機会がなく、俺が死ぬ何十年も前に亡くなったという話だけは聞いていた。
どうやらその勇者の生まれた村が、今では世界最大の国にまで発展を遂げてしまったという。
『大賢者の塔が崩壊したマスターとは大違いですね。人望の差でしょうか?』
リントヴルム辛辣すぎぃ……。
『確かにあいつは人間的にも良い奴だったからな。しかも美人のお姫様の求愛を蹴って、実家の幼馴染と結婚したらしいし……くっ、その二択とか死ぬほど羨まし過ぎる……っ!』
ちなみに俺だったら胸の大きな方を選ぶ。
「そして現在この国を治めている王族たちは、勇者様の子孫であるそうでございます」
『勇者は大勢の子供や孫たちに見守られながら幸せな最期を迎えたそうですね。……一方、一人も子供を残すことができなかったマスター。もしかしてまだ童貞では?』
どどど、童貞ちゃうし!?
「……あ、見えて参りましたね」
そうこうしている間に、その帝都とやらに着いたらしい。
「ほう、さすがに立派な都市だな」
空から見下ろし、俺は思わず感嘆の声を漏らす。
分厚い城壁に囲まれ、高い建物が所狭しと建ち並んでいる。
ただ、決してごちゃついた感じはなく、非常に秩序だった印象だ。
道路も真っ直ぐ作られているし、きっと明確な都市計画の元に発展してきたのだろう。
都市から少し離れた場所で地上に降り、街道を歩いて城門へと向かう。
全部で七つの城門があるらしく、そこを起点とした街道が、この国の隅々にまで伸びているそうだ。
「ちょっと! すごい並んでるじゃない!」
「ん」
「そうでございますね……普段はここまでではないはずですが……」
城門前に行列ができていた。
都市内に入ろうとする人数が多いせいで、検問に時間がかかっているらしい。
特別な許可証を持っていれば、検問を受けずに中に入ることができるようだが、生憎と初めてこの都市に来た俺たちにそんなものはない。
「いえ、Aランク以上の冒険者ギルド証があれば許可証として利用できますよ」
「そうなのか?」
ちなみにメルテラもAランクの冒険者だという。
「Aランク冒険者の赤子が二人もいるなんて……ほんとどうなってるのよ……」
「レウス様はともかく、わたしは実年齢で登録しています」
初めて冒険者ギルドを訪れたときは、当然めちゃくちゃ驚かれたらしい。
ただ、見た目が幼いだけで中身は何百年も生きているハイエルフだと伝えれば、結構すんなり納得されたそうだ。
「その方が色々と都合がいいですから」
『マスターもそうすればいいのでは?』
『断固拒否する』
そうして行列に並ばずすんなり中に入れた俺たちは、メルテラの案内でとある建物へとやってきた。
「ここは何だ?」
「新聞社でございます」
「新聞社……?」
聞き慣れない言葉に、俺は首を傾げる。
「新聞というのは、最新の政治動向や事件、あるいは珍しい情報などを載せた紙媒体の定期刊行物のことでございます」
「へえ、そんなものが」
「ここの〝アルセラルジャーナル〟は、その新聞の先駆けとなったもので、世界各地にまで記者を派遣し、世界中の情報を扱っているのです。それもあって、他国にも置かれたりしていますよ」
ファナが「そういえば」と呟いた。
「ベガルティアの冒険者ギルドで、誰かが読んでた」
「あのペラペラの紙ね!」
アンジェも頷く。
冒険者は世界各地を飛び回っている者も多い。
彼らのために、新聞を販売している冒険者ギルドもあるそうだ。
「お姉ちゃんたちも読んだことあるの? どんなことが書かれてた?」
「……読んでない。読む気にもならない」
「あたしも……だって文字ばっかりだし!」
販売はしていても、脳筋が多い冒険者の中に読んでいる人は少ないみたいだ。
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