第190話 僕たちも協力しないと

 メルテラの魔法によって海が凍り付き、魔物をあっという間に全滅させてしまった。


 そういえば、メルテラは氷系統の魔法を得意としていたっけ。

 だがこれほどまでの大魔法を容易く使いこなしてしまうとは……。


 ハイエルフの長い寿命のお陰もあるだろうが、俺が死んでからさらに腕を上げたようだ。


「大半の魚は生きているはずですから、漁業には支障がないでしょう」


 魔物とは違い、身体の小さい魚は氷の亀裂の隙間で難を逃れているようだ。

 もちろん今は一緒に凍ってしまっているが、仮死状態になっていて、解凍するとまた動き出すらしい。


「凄いじゃない! こんな魔法を使えるなんて!」


 アンジェが目を輝かせ、メルテラを抱き上げる。


「……あの、アンジェ様、先ほども申し上げた通り、中身は大人なのですが」


 赤子扱いされて少し不服そうなメルテラ。


「あ、つい……。でも、減るものじゃないし、別のいいでしょ?」


 アンジェはそう言って、ぎゅっとメルテラを抱き締めた。


「お姉ちゃん! 僕ならいつでも抱っこしてくれて構わないよ!」

「あんたはお呼びじゃないから」

「ひ、酷い! 同じ赤子なのに!」


 冷たくあしらわれ、俺は思わず抗議する。


 赤子差別反対!

 すべての赤子に抱っこの権利を!


「そんなことよりレウス様。陸に戻りたいので、後はよろしくお願いします」

「……炎球」


 俺が魔法を発動すると、球状の炎が前方の氷を一瞬で溶かしていく。

 そうして浜辺まで続く穴ができると、俺たちはそこを歩いていった。


 浜は大騒ぎになっていた。

 なにせ急に海が凍り付いてしまったのだから当然だろう。


「こんな現象、初めて見たぞ! 魔物の大量発生といい、一体海で何が起こってるんだ……?」

「おい、見ろ! 冒険者たちが帰ってきたぞ!?」

「ほ、本当だ! 無事だったのか!」


 地元の人たちが驚きながらも俺たちを出迎えてくれた。


「もう大丈夫だよ、おじちゃんたち。原因は取り除いたし、大量発生した魔物も海の中にいたのはほとんど倒せたと思うから」

「ま、まさか、この凍った海はお前さんたちの仕業かっ?」

「うん。氷が解けたら漁業を再開できるはずだよ」


 暖かい季節だし、氷解までそれほど時間はかからないだろう。


 浜に上陸してしまった魔物くらいは、彼らだけでもどうにかなるはずだ。

 水棲の魔物は、陸上で相手をするなら大して強くないからな。


「と思ったけど、できる限り早く浜辺を平和にして、海水浴客に戻ってきてもらわないと!」

「いえ、レウス様。そんな暇はございませんよ」

「え?」

「こうしている間にも、敵が各地で危険指定物を使用し、被害が拡大している可能性もございます。のんびりしてはいられません」

「そ、そんなぁ……」






 というわけで、平穏を取り戻した浜辺をすぐに旅立って、魔導飛行船で空を飛んでいた。


 ……水着美女で溢れる海水浴場を夢見て必死に抵抗したのだが、そもそも海水浴場として利用できるようになるまでは相当な期間がかかると言われて、泣く泣く従ったのだ。


 ちなみにファナたちには、メルテラがあの大賢者の塔の生き残りであり、当時の危険な魔導具や研究記録などを見つけ出すために活動していることは話してある。


「それは大変だ! 僕たちも協力しないと!」

「なんか怪しいわね? 会ったばかりのエルフのことを、やけに信用してるし。あの塔にあたしたちを連れていったことといい、あんたも実は生き残りの一人なんじゃないの?」

「ばぶう?」


 そんな俺たちの新たな目的地はというと。


「アルセラル帝国?」

「はい。現在において、世界有数の大国と言っても過言ではないでしょう。その帝都には世界各地から様々な情報が集まってくるため、わたしが拠点として利用しているのでございます」


 そして禁忌指定物が引き起こしたと思しき事件の情報を得ては、現地へ赴くという日々を送っていたという。


『若い女性の胸ばかり追いかけていた誰かさんとは大違いですね』

『俺は事情を知らなかったんだから仕方ないだろ。にしても、アルセラル帝国か。聞いたことのない国だな』


 前世の俺が死んだ後にできた国なのかもしれない。

 ただ、何となくどこかで耳にしたような名前のような気がするが……。


「かつては国どころか、小さな村でしかありませんでしたから。ただ、知る人ぞ知る有名な村でもありました」

「そうなのか?」

「はい。なにせこの国は、かの勇者リオン生誕の地、アルセラル村がその前身でございますから」



--------------

コミック版『魔界で育てられた少年、生まれて初めての人間界で無双する』の第2巻が、4月28日に発売されます!!(電子版のみとなります)

よろしくお願いいたします!

https://novema.jp/comic/comic-grast/book/n225#comic-book-860

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る