第184話 並の腕前じゃないね

「はい、水中生活魔法。それから防御力強化魔法っと」


 水着だけだと防御に不安があるだろうから、全員の防御力を大幅に上げておく。

 これでそこらの防具を身に着けているよりも、ずっとダメージを軽減できるだろう。


 そうして俺たちは再び砂浜に降り立つと、魔物が溢れる海の中へ。


「ん、息ができる」

「本当だわ! しかも喋れるし!」


 水の中に入ってもちゃんと呼吸ができて、喋っても口や鼻に水が入ることはない。


 さらに砂の上を普通に歩くことができた。

 ちょっとふわふわしてしまうが。


「浮力と水の抵抗を五分の一くらいにしてあるからだよ。でも、ジャンプすれば地上よりも飛べるはず」


 頑張れば泳ぐのも不可能ではない。


「少し抵抗はあるけど、十分戦えそうね!」


 拳を何度か突き出しながらアンジェが言う。

 ファナも剣を振って確かめている。


「それにしても、海の中ってこんなふうになってるのね!」

「ん、きれい」


 珊瑚が広がり、色んな種類の魚が泳いでいた。

 上を見遣ると、太陽光に照らされた水面がキラキラと輝いている。


 しかしそんなふうに暢気に海中ウォークを楽しんでいられるのも束の間だった。


「む、サメの魔物が近づいてきたぞ」


 リルが指摘した直後、全長五メートルを超す巨大なサメがこちらへ猛スピードで迫ってきた。


「って、速っ!?」

「我に任せるがいい」


 大きく口を開け、リルを丸呑みしようとした魔物だったが、その下顎にリルが強烈な蹴りを叩き込む。


「~~~~~~ッ!?」


 驚いたサメがすぐに逃げ出そうとするも、リルがその尾鰭を掴んで逃がさない。


 必死に暴れる魔物に手刀を見舞うと、身体が真っ二つに両断された。

 サメは絶命して力なく海底に横たわる。


「まさか陸上生物に倒されるとは思ってもみなかっただろうね」


 それからも巨大な蟹の魔物や海蛇の魔物、貝の魔物などに遭遇しては蹴散らしつつ、俺たちは沖に向かって進んでいった。


 やがて遠くに人工物が見えてくる。


「何かある?」

「神殿みたいなものがあるわね。でも、こんな海底に……?」


 それはアンジェが言った通り、神殿らしき建物だった。

 周囲には大量の魔物がいる。


「海底神殿だね。誰が何のために作ったかは分からないけど、それなりに年季が入ってそう」

「我が主よ、これが魔物の大量発生の原因なのか?」

「うーん、多分だけど、これ自体は無関係じゃないかな? ただ、この中に発生源がありそうだよ」


 神殿の入り口となる扉は固く閉じられていたが、外壁自体に穴が空いている。

 魔物がそこから出てくるところが見えたし、恐らく間違いないだろう。


 穴の近くの魔物を排除しつつ、俺たちはそこから神殿内に侵入した。


「っ! 凄い数の魔物ね……っ!」

「溢れてる」


 神殿内部は魔物の巣窟と化していた。

 次々と襲いかかってくる海の魔物と戦いながら、ひたすら神殿の奥へ。


 その途中、俺たちはある異変を発見した。


「あれ? 魔物の死体がある?」


 俺たちが進む先に、なぜかすでに死んだ魔物がふわふわと浮いていたのである。

 それも一体だけでなく、何体もあった。


「魔物同士でやり合った?」

「いや、その可能性は低いかな。見てよ、お姉ちゃん。この死体の傷」


 何か鋭利なものでばっさり斬り割かれたような傷痕が残っていた。


「剣で斬られたのかしら?」

「ううん、ほら、この傷口、ちょっと凍ってるでしょ? たぶん、氷系の魔法だと思うよ」


 道理でこの辺り、少し水がひんやりしているなと思った。


「それも刃物のような氷を作り出せるなんて、並の腕前じゃないね」


 魔物の仕業ではなさそうだ。

 リントヴルムもその俺の意見に同意して、


『どうやらこの神殿内に先客がいるようですね』

『しかし一体何の目的があって、こんな場所に立ち入ってるんだ?』

『もしかしたら我々と同じかもしれませんよ』


 ちょうど俺たちの進むルートに、足跡ならぬ死体跡が続いている。

 このまま行けば、先客に追いつくかもしれない。


「でも、この魔力の残滓……なんか覚えがあるような……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る