第183話 だって赤ちゃんだし

 俺は燃えていた。

 必ずやこの海から危険な魔物を一掃し、元の安全で美しい海を取り戻さんと決意していた。


『そうすればきっと、この浜辺に再び水着美女たち集まってくるはず!』

『……』


 リントヴルムの蔑みの視線を余所に、俺は先ほどのバリケードを再び越えて浜辺へ。


「魔物を一掃するって言っても、まずはこの原因から取り除かなくちゃね」

「師匠、原因が分かる?」

「うん、一応ね」


 すでに俺は、この魔物の大量発生の原因に予測がついていた。


「ただ、海の中に潜っていかなくっちゃ」

「海の中?」

「どうやって潜るっていうのよ? こんなに魔物で溢れかえってるのよ? 呼吸だってそんなに続かないだろうし」


 アンジェが言う通り、動きにくい海中で水棲の魔物とやり合うのは簡単ではない。


「大丈夫。海の中でも陸の上と同じように呼吸ができて、スムーズに動けるようになる魔法があるんだ。水中生活魔法っていうんだけどね」

「すごい」

「そんな魔法が……」

「さすが我が主」

「ただ、この魔法には一つだけ欠点があってさ」

「「「欠点?」」」


 色々と工夫して、どうにか克服しようと試みたのだが、残念ながら上手くいかなかったのだ。

 そのため、海に入る前にどうしてもあることをやらなければならなかった。


「といっても、すごく簡単なことだけどね」


 そう言いながら俺は彼女たちにそれを渡した。


「はい、水着。普通の服を着ていると、水の中で動きにくいんだ」


 そう。

 どうしても水着に着替える必要があるのだ。


『……本当ですか、マスター?』

『本当だよ。水中生活魔法で、水の抵抗を極力少なくすることには成功したんだけど、水分を吸収しちゃう衣類を身に着けていると、その効果が半減しちゃうんだ』

『口から出まかせでは?』

『いや本当だって! リンリンが信じてくれない!』

『普段の行いが行いですから、もはや俄かには信じられません』


 不信の目を俺に向けてきたのはリントヴルムだけではなかった。


「……それって水着を着せたいだけじゃないの?」

「そんなことないよ。ほら、アンジェお姉ちゃんも早く早く」


 ファナとリルはすんなり頷いてくれ、すでに服を脱ごうとしている。


「ちょっと待ちなさい! こんなところで着替える気!?」

「ん。今なら誰も見てない」

「見られても恥ずかしいものではないだろう?」

「何で常識が通じないやつばかりなのよ……」


 砂浜で着替えようとしたファナたちに、アンジェが大きく溜息を吐く。


「僕も見られたって平気だよ!」

「あんたは赤子でしょうが」


 結局アンジェの我儘で、いったん飛行船へと戻り、そこで着替えることになった。


「まぁ仕方ないね。あそこだと魔物もいるし危険だから」

「あんたは外に出てなさい」


 一緒に着替えようとしたら部屋の外へと捨てられた。


「酷い! こんないたいけな赤子を放り出すなんて! ……透視魔法」


 俺の前には壁なんてあってないものなのだ。

 ぐへへへ……。


 そうして水着に着替えたファナたちが部屋から出てくる。


「おお~。お姉ちゃんたち、すごく似合ってるよ!」


 俺は思わず拍手していた。


「ん。動きやすい」


 ファナはオーソドックスなビキニタイプの水着。

 布面積が少なくて、豊かな胸やお尻が零れ落ちそうなのが最高だ。


「ちょっと!? なんでこんな形状してるのよ!?」


 顔を赤くして叫ぶアンジェは、鋭い角度のハイレグの水着。

 胸の部分もほとんど紐のような細さで、谷間や横乳をばっちり拝むことができる。素晴らしい。


「確かにこれは動きやすい」


 頷くリルの水着は、ハート形のニップレスだ。

 大事な部分をシールで隠しているだけなので、歩くと乳房がぼいんぼいんと揺れてしまう。

 なお、下半身はマイクロビキニである。


「師匠は……裸?」

「何でなにも着てないのよっ?」

「だって赤ちゃんだし」


 俺はただ衣服を脱ぎ捨てただけである。

 全裸で泳ぐのって気持ちいいよね?


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