第176話 地味な顔してノーパンとは
『それにしても、我ながらなかなか面倒なダンジョンを作ったものだなぁ』
大賢者の塔のダンジョンを攻略しながら、俺は思わずぼやく。
正しいルートを進まなければ何度も来た道に戻される永久ループのトラップに、塔の外に放り出される強制退場トラップ、さらには魔物を千体倒さなければ出られない部屋など、厄介な仕掛けが大量に設置されているのだ。
『当時はまさか自分が挑戦する羽目になるとは思ってなかったし……』
あくまで侵入者を排除するためのもので、当然ながら俺自身が出入りするときにわざわざ地上から登っていくなんて真似はしなかった。
それでも辛うじて残る記憶を頼りに、どうにか塔を上っていく。
「ていうか、あんたも初めてきたはずなのに、何でそんなに簡単にトラップを回避できるのよ?」
「この程度のトラップ、見ただけで分かると思うけど?」
前世の俺が仕掛けたものだし、もちろん見ただけで分かるようなトラップではない。
もし当時の記憶なしに攻略しろと言われたら、さすがの俺も苦労するだろう。
「さすが師匠。大天才」
「ほんとかしら……」
そうしてダンジョンを抜け、ついに俺たちは塔の上層階へと辿り着いた。
ここから先は弟子たちが研究に利用していたフロアになっているので、もうトラップなどはないはずだ。
『さて、研究資料とかは残ってるのかな? ――え?』
俺は思わず絶句してしまう。
なぜならそこに広がっていたのが、
「人がたくさんいる」
「ちょっと、何なのよ、ここはっ? ダンジョンの上に、街があるってこと!?」
一瞬俺が幻覚でも見ているのかと思ったが、どうやらファナとアンジェにも見えているらしい。
どういうわけか、当時とまったく同じように、魔法使いが行き交っていたのである。
『もしかして、建物だけじゃなくて、組織そのものも残ってるとか?』
『いえ、さすがにそのはずは……』
驚くこちらには興味がないのか、騒いでいても見向きもせずに通り過ぎていく。
信じられないことに、その中には見知った顔もあった。
『前世の頃から実はまだ十年くらいしか経ってない可能性も微レ存?』
『その方がもっとあり得ないかと』
俺の推測はリントヴルムに一蹴されてしまう。
まぁ、そうだろうなぁ。
「随分と奇妙なニオイがする。人間とは違う、嫌なニオイだ」
リルが顔を顰める。
「そうだね。人間じゃなさそうだ」
「? 人間にしか見えない」
「人間じゃないって、どういうことよ?」
ちょうどいいところに目の前を通り過ぎようとした女魔法使いがいたので、俺は彼女のスカートの裾を思い切り捲り上げた。
「ほほう、地味な顔してノーパンとは」
「何やってんのよ!?」
アンジェが怒鳴ってくるが、お尻が丸見えになったにもかかわらず、その女魔法使いは何事もなかったかのように無言で去って行ってしまった。
「……無反応?」
「そういえば、これだけ人がいるのに、話し声が一つも聞こえてこないわね……」
「うん。彼らは生きた人間じゃないよ。かなり精巧だけど、恐らく人形に近いと思う」
それからあちこち歩き回ってみたが、やはりいるのは無言無反応の人形だけ。
生きた人間は一人も見当たらない。
そしてどうやら当時この塔にいた俺の弟子たちの姿を、完全に再現しているようだ。
あまり記憶にない顔もあったが、元より全員の顔を覚えていたわけではないしな。
もちろん先ほどのようにスカートを捲ってみても、お尻を触ってみても、胸に飛びついて揉みしだいてみても、まったく怒られることはなかった。
「なに好き放題してんのよ!」
人形とはいえ、見知った顔だとすごく興奮するよね、ハァハァ。
『……最低ですね』
『おっ、あそこにいるのは……メルテラじゃないか!』
ハイエルフ(人形)を見つけた俺は、その胸に顔からダイブしていくのだった。
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